第337話:みんなの想い、エリさんの想い
翌日。
母さんと、お出かけ。
目的地は、沢田絵里先生の、お宅。
逆家庭訪問!?
では、なく。
とっても、個人的な、訪問。
今日は母さんとお揃いの、母娘コーデ。
春らしく、明るい色だけど、少し色違いの、ワンピースとカーディガン、それに、母さんとお揃いのハンドバッグ。
学校に通っている中では大きな通学バッグがあるから、気にならないのに。
どうして私服の時って、こんな小さなバッグになるのか。
お財布とか貴重品、それに持ち運び用のお化粧品とか、とか。
母さんが買い与えてくれるので、有難く使わせてもらってるけど。
「いらっしゃい、沙綾さん、真綾ちゃん」
そんなあたしたち母娘を出迎えてくれる、エリさん。
今日は、先生としてではなく、母さんの恋人として。
まだ少し先になるとは思うけど、あたしの、新しい母さんとして。
「おじゃましま……んっ」
玄関入って、五秒で。
きゃぁああ。
大人の、キッス!?
「ん……ほら、エリ、今日は」
「あ」
今日は?
つまり。
普段は?
きゃぁああ。
いやもう、生々しいなっ。
あんまり、知りたく無い気もする、母親の恋愛事情。
ここまで見せつけられたら。
はい、はい、って感じもしなくは、無い。
「てへっ。ささ、狭いとこだけど、どーぞ」
エリさんのお宅には、引っ越しの時に一度お邪魔してる。
それ以降、来てないけど、うん、あの時と比べると、だいぶ物が増えてる、かな。
「あらやだ、今日はずいぶんとキレイに片付いてるじゃない?」
「あー、やー、ま、真綾ちゃんが来るし、と思って、ちょっと」
「む、わたしなら散らかってても大丈夫ってこと?」
「そんな散らかしてませんよー」
「んふふ、いいわ、それだけわたしには気を許してくれてるってことだものね」
「えへへ」
はい、はい。
まったく、もぉ。
先生のお部屋は、ひとり暮らし用のアパートの小さな部屋。
ベッドは無く、おそらく、布団を使ってるんだろうね。
そんなお部屋で。
折り畳み式の小さなロゥテーブルのまわりに、座布団を敷いて。
三方に、それぞれ、着席。
あたしたちが来るタイミングを見計らって用意してくれていたであろう、お茶を囲んで。
早速。
「エリさん」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
そんな緊張しなくても、と、言っても、緊張、するよね、さすがにこの状況は。
ふたりの逢瀬の時間に割り込んで、お邪魔してるわけだし。
とっとと用件を済ませて、あとはお二人で、って形にしてあげるつもり。
「エリさんは、母さんと結婚して、母さんの子供が、欲しい、ってこと、でいいんですよね?」
ほんの一瞬、母さんと目を合わせて、何かを語り合って。
「はい」
真面目に、でも、はっきりと。
まったく。
いつの間に、どこでどんなって、聞きたいのも、山々ながら。
その話は、また落ち着いたら、ゆっくりと。
「家族になる、って意味なら、エリさんとあたしが結婚すれば、母さんが義理の母親にって、そういう方法もあると思いますけど?」
この方法なら、母さんとエリさんの血を引いた子供をって話も、そのまま継承できるし、ね。
「それも考えた、けど、やっぱり」
義理の、というよりは。
直接。
法律的には、まだまだ同性婚は認められていないとは、いえ。
昨今の時代の流れに応じて。
それなりの制度も整えられつつあり。
「そう……じゃあ、もうひとつ」
「は、はい。何でしょう、か?」
まだ緊張してるね、エリさん。
小柄なところもあいまって、お母さんやお姉さんってより。
妹みたいな感覚も、無きにしも非ず。
「子供は、何人欲しいですか?」
「!?」
「まっ!?」
エリさんだけでなく、母さんまで。
ふっふっふ。
不意を突いて。
お見合いしてる、お見合いしてる。
母さんと、エリさん。
目と目で、何やら、会話。
指を一本、二本、三本、二本、二本。
話はまとまったらしく。
母さんと、エリさん、ふたりして、指二本を、小さく掲げて
「ふ、ふたり、かな?」
よぉっし。
ちょっとだけ、反撃してあげて。
ちょっとだけ、スッキリ!