第336話:母さんがあたしに科す試練
母さんとの会話の流れから、突然と言うか、ある意味必然と言うか。
飛び出してきた、またも、母さん爆弾。
あたしの知識、理解度の確認とか言って試験問題を出してきた。
そして、有無を言わさず、いきなり、試験開始!?
いや、これ。
昨日今日に作ったものじゃないわよね、多分。
以前から、この日のためにと。
もしくは、いつ、出そうかと、機会をうかがってたの、かも。
それが、たまたま、今。
試験問題は。
男女の身体の仕組み。特に、女性の生理について詳しく。
さらに妊娠、出産のしくみ、それから、避妊の方法、種類。
このあたりは、保健の授業の内容だよね。
ちょっと違ってるのは、学校の授業とかでは出てこないような、わりと具体的な行為の方法について。
それが、わりとあからさまに書いてあるのが、ちょっと怖い……。
それにしても。
母さん、どんな顔をしてこれを作ったのやら……。
基本的に選択式の穴埋め問題なので、単語や文章を選んでいく形。
ちょっと赤面しつつも、さくさく、と。
「はい、できたよ」
「あら、もうできたの?」
三十分って、言われてたけど。
二十分も、かかってないかな。
「どれどれ」
赤ペン先生ならぬ、赤ペン母さん。
きゅきゅっと、赤丸。
「うわ、すごい、百点満点よ」
そりゃまあ、そんなに難しい問題じゃなかったし、ね。
「そりゃ、どうも」
「なんだ、こういうの全然興味なくて知らないとばかり思ってたけど、真綾も意外とむっつりさんだったのね」
「いやいや、それくらい、一般常識レベル、だよ?」
たぶん?
「ふぅん。まぁいいわ、そういう事にしていおいてあげる」
くっ。
なんか、上から目線だな。
まぁ、親だし、上からなのは仕方ない、か。
くやしいからもっと過激な試験問題作って母さんの知識、理解度をテストしてやろうかしら?
試験問題を作ってる間にあたしが茹で上がっちゃいそうな気もするけどね!?
それはさておき。
ある意味、母さんの『本気度』も、知れたかな。
だから、次は。
母さんに次いで、身近な、いや、身近になるであろう。
「エリ先生……エリさんとも、お話、したいから」
「う、うん」
このまま話が進めば、先生は、いずれ、先生ではなくなり。
かりそめとはいえ、義理とはいえ、母となり、家族となる。
だから。
「明日、母さんと一緒に、エリさんのお宅にお邪魔できないかな?」
一応、八時間目の共有スケジュール帳でエリ先生のお休み、つまり予定の無い日は、確認済み。
もともとは、母さんとふたり、ゆっくりってスケジュールだったとは、思うけど、そこに。
「そ、そうね、ええ、いいわよエリちゃんが大丈夫ならだけど……ちょっと聞いてみるわね」
そう言って、母さんは、携帯端末を取り出して。
「あ、エリちゃん、こんばんわ」
先生、電話に出るの、早っ。
「うん、それでね、急で悪いのだけど、明日の予定、キャンセルして」
エリ先生の悲鳴が、少し離れたあたしのところまで、届く。
「あ、いや、そうじゃなくってね、真綾と一緒に、うん、そう、真綾がね」
頑張って取り繕う、母さん、がんば。
「うん、そう、例の件、子供の件、直接話がしたい、って」
もう、婉曲して、遠回しに言っても無意味だと、わかってるようで。
あたしの前でも、素直にその通り。
「時間は予定通り、午後、ね。うん、じゃあ、また明日。おやすみ……エリ」
ふわぁ。
なんか、最後の方。
すっごく。
恋人してるなぁ。
好きよ、とか、愛してるわ、とか、言い出しそうな、雰囲気ではあったものの。
さすがに、子供の、あたしの前だから?
少し、恥ずかしくて、ためらったかな?
ふぁあ。
でも。
そういう風に。
冗談ではなくて、本気で、本当に、お付き合いしてるんだって。
なんとなく、理解できたのは、良かったのかも。
かも。