第335話:みんなの想い、母さんの想い
二年生になって。
新・八時間目も、始まって
ドタバタと、ゴールデンウィークへ突入。
一番のドタバタは、そう、もちろん、母さんから聞かされた例の話。
ある意味、関係者でもある、雪人さんにも相談して。
雪人さん自身の過去も聞かせてもらって、アドバイスも、もらって。
あたしを求めてくれる人たちのことも、想って。
でも。
やっぱり。
きちんと、直接、本人から、その本心を、聞きたい。
先ずは。
「母さん、ちょっといい?」
夜、食事もお風呂も終えて、そう、この間と同じ感じで、今度は、あたしから。
「うん、いいよ。じゃあ、お茶、煎れるわね」
お茶待ち、待機でリビングのソファ。
「おまたせ。何かしら、と、言うか、この間の話、よね?」
母さんも、察してくれている模様。
「うん、そう、母さんに訊きたいのは……」
母さんが自分の息子を、まるで道具のように、他人に貸し出そうとしている事について。
「そうよね、良くない事、悪い事だとはわかってはいるわ」
エリ先生の件は、少し違っている点もあるけど。
シズさんから、みんなから相談を受けたのは、母さん。
母さんが、そこで拒否してくれていれば、あたしにこの話は、届かなかったはず。
「エリちゃんとの事もあるけど、シズさん、それにあの子たちの熱意にほだされたって言うのもあって」
やっぱり、大きなきっかけは、エリ先生との事、だよね。
そこへ、シズさんが。
そのシズさんに、あてられたのか、先輩たちまで。
「それに、お母さん自身のこともあって、真綾には、きちんとそういう事、教えてあげたいって、ずっと思ってたの」
高校時代、合コンで知り合った大学生にお持ち帰りされて。
あたしを身籠った、話。
「お母さんの元の親って、ね」
そして、それ以前の、話。
母さんの元の両親。
あたしの知らない人たちだけど、その人たちから。
厳格なしきたり? みたいなもので、がんじがらめにされてて。
そういった方面の情報からも遮断され。
女子学校で、男性との接触も制限され。
何も知らない状態だったから。
「そんな状態でよく合コンとか行けたね」
「ほとんど騙されて連れて行かれたようなものだったのよ」
恥ずかしながらね、と、少し照れる母さんは、続けて。
「無知ほど怖いものは無いって気付かされたわ」
そう言った知識が何もなかったが、故に。
相手に何をされているのかも、理解が追い付かず。
言われるがまま、されるがまま、ってことだったらしい。
「真綾には、いつかちゃんと、教えてあげたいなーって、思ってたの」
それは、それで。
なんか、違うような気もする。
「教えてあげると言うよりは、ちゃんと理解できてるか確認したかった、って言う方が正しいかな?」
まぁ、普通。
こんな話、親子でするような話じゃ、ないよね。
他の家庭だと、どうなの?
友達同士とかでも、そういう話は禁忌みたいなところ、あるし、知る由もないけど。
なんとなく、親子でそんな話はしてなさそう、って気は、する。
このご時世。
ネットを使えば、そういった情報も簡単に検索できるし、ね。
その情報を、どう活用するのかは、それぞれの判断、だとして
「そこはわかったけど、そういうのを実際にさせるのって母さん的にどうなの?」
親と、して。
「せっかくのいい機会だから、経験を積ませてあげたかった、じゃ、ダメかしら?」
それは、それは。
確かに。
自分ひとりで。
恋人を作って、その恋人と、とか。
うん、想像も、付かないし、なんとも現実味が無く、機会なんてそうそう、無いだろうから。
ずっとずっと、未来の、夢のような話、みたいな考えはあったから。
だからこそ。
降って湧いた、この話。
道具のように使われる、って感は否めないものの。
求められた上での、事となれば。
こちらとしても、やぶさかでは、無く。
母さんの言う通り、経験を積むと言う意味では、絶好の、機会とも言える。
それにしても、やっぱり、母さんだけでなく、他のみんなの、それぞれの本心、『想い』を、聞いてから、かな。
とか、思っていたらば。
「そうだ、ちょうどいいわ。ちょっと待ってて」
はい?
母さんが、何か、突然、思い出したように。
リビングを出て行ったかと思えば、ほんとうにすぐに戻って来て。
持って来た紙? を、ロウテーブルに置くと。
「真綾がどの程度理解してるか、理解度テストよー」
はいぃ!?
って。
見たら。
そういう方面の話が、試験問題風に、ズラリ。
「時間は、そうね、三十分かしら、よーい、はじめっ」
そして、いきなりっ!?