第334話:男装グッズを買い出しに
夜、遅くまで雪人さんと通話してたら。
翌朝はさっくり起きられず。
母さんも、昨日の今日で無理やり起こしには来なかったんで。
集合に、間に合わなくなるところだった。
やばいやばい。
土曜日、休日ながら、一年女子たちの男装用グッズを求めて。
例の、コスプレショップへ。
八時間目の新メンバーで、ぞろぞろ、と。
先輩たちは。
あたしが、母さんから話を聞いたことを、すでに知っているのか、いないのか。
んー。
母さんの事だから、情報の共有って感じで、あたしに話したことをみんなにも伝えてるだろうとは、思うけど。
先輩たちは、特に普段と変わった様子も、無く。
あたしの方が意識しちゃって、ちょっとどぎまぎ。
それでも、なんとか、それを隠して。
できるだけ、普段通りに。
ショップでは、一年の女子ふたりが、試着も含めて、男装グッズを、あれこれ物色。
先輩たちの時と違って、すでに実績もあるし。
上谷さんは、金髪男先輩と、下谷さんはおさげ男先輩と体形が近いので、それをベースに試着で確かめる感じ。
七ちゃんと九ちゃんは、グッズ自体は必要なさそうなんだけど。
もともと体格も華奢なだけあって、肩幅だけでも広げた方が、ってことで、その部分だけ。
ウィッグもみつくろって、結構、本格的に。
そんな、中。
「おかーさん先輩も、男装するなら少し肩幅広げた方がいいんじゃないですか?」
七ちゃんに、指摘される。
って、おかーさん先輩は、やめて?
「いやいや、あたしが男装って、おかしいでしょ」
「それを言い出したら、あたしらだって、でしょ?」
うーん。
「なるほど……」
今日は、ただ傍観者として、付き添のつもりだったけど。
しっかりと巻き込まれました、はい。
休日に、そんな活動で、わいわいと過ごして。
お目当ての物を手に入れて。
次回の八時間目は、全員男装で、って事で。
お開き、なんだけど。
「じゃ、また来週ねー」
ターミナル駅の乗り換えで、一年生は、別の路線へ。
「はい、お疲れ様でした」
エリ先生と、先輩たちは、あたしと同じ路線。
若干。
どころか、結構、気まずい……。
ほぼ、会話もなく。
車窓を流れる景色を、眺めていたら。
「あ」
おさげ男先輩が、不意に。
「どうした、ツグオ?」
「あぁ、いや、あの子たち、グッズは買ったけど、制服……」
「あ」
「あ」
「あぁあ」
あー。
「体格変わっちゃうから、そのままじゃ制服、入らないよねぇ」
そうでした。
先輩たちは、グッズを装着した状態で採寸して、それ用の制服を別に作ってたっけか。
あー。
「って事は、あたしも……」
はい、肩幅広げたら、今の制服じゃ入らないですね。
多分……。
「あれって、雪枝さんのお店で作れるんだったっけ?」
「そうだぜ、雪枝さんとこで採寸して貰って作るしかねぇな」
「さすがにそこまでは活動費出ないわね……」
この人たちは、まったく。
計画性が無いと言うか。
まぁ、あたしも全然気付いてなかったんだけど、ね。
とりあえず母さんに相談してみよう。
でも、そんなネタみたいな話で、費用出してもらえるだろうか……。
あたしの場合、最悪はアルバイト代で。
あの子たちはどうすればいいやら。
なんて。
考えてたら、気まずさは、少し軽減されたものの。
やがて、あたしの最寄り駅。
一瞬、このまま先輩たちに、引き止められて拉致されるかとも思ったけど。
さすがに、そこまでは、無く。
「じゃあ、あたしはこれで」
「おう、お疲れ、おかーさん」
「お疲れ様です、お母さん」
「気を付けてな、母上」
先輩たちに見送られ、ひと足先に電車を降りて。
「沙綾さんによろしく」
エリ先生にも、見送られて。
「はーい、お疲れ様でした」
何か、特別なことがあるか、起きるか、なんて、不安や期待もあったものの。
普通に過ごして、普通に、帰宅。
はふ。
疲れた……。
精神的に。