第332話:お風呂でいろいろ、色々
バスルームで。
水のシャワーを。
全身にかけると、冷たすぎるから、頭にだけ。
ん。
熱暴走しそうな頭が、ちょっと冷やされて、落ち着いたら。
シャワーの温度を上げて。
今度は、身体にもかけて、軽く汗を流して。
湯船に、ちゃぽ、っと。
「はふぅ……」
肩まで浸かって、さらに、口元までお湯に浸して。
「ぶくぶくぶく」
エリ先生は、ともかく。
先輩たちの、言動を思い起こして、みれば。
ほとんど冗談と言うか、あたしをからかっているとしか、思えないような内容。
それが、実は。
本音の混ざった、あるいは、本音そのものだったか。
例の『同意書』も、然り。
その『同意書』を使って、訓練? とか、言ってたのも。
なるほど、母さんの話を聞いて合点がいったって感じ。
シズさんはもっと直球だったしなぁ。
「ぶくぶく」
エリ先生の場合、そういう様子はほとんど無かったけど。
母さんと恋仲になって、母さんと『一緒になる』ことからの流れで。
最も最適な相手として、って事みたいだよね。
「ぶくぶくぶくぶく」
もちろん。
みんなに求められる、みんなに選んでもらってる、って。
すごく、すごく、嬉しい。
「ぷはぁっ」
鼻呼吸だけだと苦しいね。
「ふぅう……」
ため息ばっかりなのは。
ある種の深呼吸?
そうやって、心と身体を、落ち着かせようって、自己防衛の本能?
本能、と、言えば。
『子作り』
意識しないように、と、思いながらも、その行為を想像してしまうと。
眠らせているはずの、男としての本能が。
目覚めてしまう。
覚醒してしまう。
「うぅ……仕方ない」
とりあえず。
再度、それを封印すべく、儀式を執り行えば。
「あ……やば……お風呂の水、入れ替えないと」
このまま、この後に母さんがお風呂に入ったりしたら、マズい。
お風呂からあがって、ささっと身体を拭いて。
お湯を抜いて、湯船を洗って。
そんな作業をしていたら、少し落ち着きを取り戻すこともできたので。
着替えて、リビングを通って、部屋に戻ろうとすると。
「おやすみ、母さん」
母さんが、まだ、ぼぉっと、ソファに座っていた。
「ええ、おやすみ、真綾」
母さんは母さんで、思うところもいっぱいいっぱいあるだろう。
ふたりとも、もう、多くは語らず。
ただ、おやすみの挨拶を、交わして。
あたしは、自分の部屋へ。
ぱふん。
ベッドに倒れ込んで。
もぞもぞ、と、寝転んで。
ぼぉっと、携帯端末の待ち受け画面を眺めてみる。
画面を見てはいるけど、特に何か操作するでも、無く。
ただ、ぐるぐると、回る、思考。
みんなの、言葉の裏にあったもの。
過去の記憶、そこから推察される、憶測。
経緯から考えるに。
母さんとエリ先生が、雪枝さんと美里さんに会いに行った時。
もしくは、その後で。
先輩たちとシズさんも交えて、女性ばかり集まって。
そんな話、会合? 会談? 密談? みたいなことをやったんだろうなぁ。
そこで、お互いに、胸の内を打ち明け合い。
って、考えてみると、すごいな。
普通だったらちょっと考えられない話だよねぇ。
実際問題、本来なら、ものすごく個人的な、話。
それを、共有して、共同で、協力して、みたいな。
それだけ、本気、って、事、なのかなぁ……。
そう言われても、さ。
こんなの、誰にも相談できないよねぇ。
一番最初に相談すべき母さんが、そっち側だし。
男友達にも、こんな話、できるわけ、無いし。
レイちゃん? ミツキさん?
ぷるぷる。
レイちゃんはともかく、ミツキさんになんて話したら、山田くん通してすぐみんなにバレちゃうよねぇ。
あと、他には……。
「あ」
雪人さん!
そうだ、雪枝さん美里さんの入れ知恵だとしたら、雪人さんも、すでに何か知ってるかも?
そうでなくとも、話せるとしたら、雪人さんくらいしか、居ないよね。
夜も遅いけど、とりあえずアポだけでも取ってみるか……。
メッセージアプリを立ち上げて。
雪人さんにメッセージを。
「こんばんは。夜遅くにすみません」
送ってみる。