第331話:母さんのお願い、三から五
母さんの話。
ひとつ目、それにふたつ目まで、聞いて。
自分でも明らかに、自分が不機嫌になってるのが、わかる。
こんなイライラした気分って。
なんか、久しぶり?
と、言うか、はじめて?
んもー! って。
あぁ、でも、なんか。
そんな、不機嫌で不愉快な自分を、冷静に、客観的に見てる自分も、居る。
ひとつ目の、先生の子供の件。
母さんと、先生の間の、間接的な、ふたりの子供。
ふたつ目の、シズさんの子供の件。
こちらは、純粋に結婚せずに、子供だけが欲しい、って。
それと、全部で五つって言ってたよね。
あと三つ、残りも聞かせてもらおうじゃないですか。
「で?」
あからさま、不機嫌な態度は、仕方ないよね。
「そう、真綾の、その、えっと、初めてが、シズさんって言うのも、ちょっとどうかな、って思うところもあって、ね。シズさんご本人もそこは気にされてて……」
それはそれは。
ご配慮、恐れ入ります。
それ以前の段階でご配慮いただければ、尚、良しなんですがー。
「で?」
「初めては、やっぱり、真綾の好きなヒトが、いいよね」
そりゃまあ。
「そうかな……そうだね」
「ね、だから、ね、エリちゃん含めて、三人の先輩の誰か……」
ちょっ。
まっ。
いやぁ、残り三つとなれば。
そう来ましたよねっ、て、話なんだろうけど。
「先輩たちまで?」
冗談じゃ、済まない話。
「実は、あの娘たちも、ね」
しばし。
母さんの、語り。
先輩たちの、話。
本人からではなく、母さんから聞く事になるのは、ちょっとどうなの?
でも、本人たちが母さんに託した、って、ことみたい。
簡潔に、まとめるならば。
先輩たちは。
すでに、将来、親が用意した男性と結婚する事が、決まってて。
本人たちも、そう言われ続けて、ある意味、納得してる? 諦めてる?
本心、本意は、わからないにしても。
結婚は親の言う通りに従うとして、子供は。
好きな男性の子供が、ひとり、欲しい、って。
しかも、金髪子先輩、おさげ子先輩、ぱっつん子先輩。
三人とも?
もちろん、先輩たちはまだ高校生だし、大学進学もあるし。
早くても大学を卒業した後だとして。
今、いまは、あたしの、ために?
と、言うか、シズさんの、ために?
予行演習を、兼ねて?
あぁあ、ああぁああ。
何それ何それなにそれナニソレ。
なんじゃそりゃぁああああああああああああ。
そして、不意に、脳裏に浮かぶ。
『子宝祈願』の、お守りガチャ。
あぁあああああああああ。
あれって、マジでそういう事だったっ、とでも言うのかぁああああああ。
ぜぇぜぇ。
……それにしても。
あたしが、先生、先輩たちの誰かの事を好きだって、思われてるのかしらん?
そりゃまあ、みんな、嫌いじゃないし。
むしろ、好きだよ。
それに、好かれてる、って言うのも、もちろん、まんざらじゃ、無い。
でも、恋愛とか、ましてや、結婚だ、子供だ、なんて。
想像したことが無い、と、言えば、ウソになるとして。
全く現実感のない、虚構であって、空虚な妄想のハズが。
これは、現実なのか?
はたまた、夢、なのか?
あぁ、きっと、夢に違いない。
「……や」
遠くで母さんの声が、聞こえる。
「……あや」
母さんに、呼ばれてるような、気がする。
「……まあや」
んー、もうちょっと、寝かせて?
「真綾、大丈夫? しっかりして?」
ゆさ、ゆさ。
「ん、あ……母さん、おはよう?」
母さんに、肩をゆさゆさ、揺り起こされた。
「あぁ、真綾……ごめんね、急にこんな話、しちゃって……混乱、してる、よね?」
ん?
「何の話?」
「えーっと……」
あたしの両肩に、手を置いた母さん。
真正面、目を合わせて。
母さんが、もう一度、話を整理して聞かせてくれる。
ぼぉっと。
その話を、聞いてるあたしと、母さんの話を聞いてるあたしを、俯瞰して見てる、あたし。
夢心地なのは、変わらずとも。
現実の話と、して。
理解はできるけど、納得は、できないって。
頭と心が、くるくる回って。
あぁ、やだ。
変な汗、かいちゃってるし。
ん、ちょっと気持ち悪いから。
「ごめん、母さん、だいたいわかった。ちょっと考えさせて。もっかいお風呂入って、今日はもう寝るから」
「あ、うん……」
有無を、言わさず。
一度部屋に戻って、着替えを持って。
再度、お風呂へ。
はぁ……。