第330話:母さんのお願いひとつ目ふたつ目
週末、休日前夜。
華の金曜日。
晩御飯もお風呂も終えて、あとは眠るばかり、となった頃。
母さんからの、とんでも話。
母さんとエリ先生が、正式にお付き合い。
お試し、とか言ってたけど、ものすごく早かったわね……。
そんなに急接近だったのも、不思議なところだけど、それ以上に。
「子供も、欲しいな、って」
母さんと、エリ先生。
共に、女性。
女同士。
女と女で子を成す事が無理なことくらいは、理解してる。
だから。
その回答、解も、ある程度、推測出来てしまう。
わかった上で、少し冷たく。
「で?」
こうなったら、ちゃんとご本人のクチから、お聞きしないと、ですよ。
聞く方だって恥ずかしいんだから。
どこまでちゃんと話してくれるやら?
「ずばり、真綾とエリちゃんで子供を作って欲しいのよ」
って。
単刀直入、一刀両断。
オブラート、何処行った!?
歯に衣、何処行った!?
奥歯に挟まるどころか、前歯でかみ切ってますやん!
遠回しに、比喩っぽく、のらりくらりって感じを予想していたのに。
「直球だね……」
「変にごまかして誤解されても困るもの」
おっしゃる通り。
「つまり、母さんの子供であるあたしの子供なら、母さんの孫になるって事よね」
それに。
ただ、母さんの孫と言うだけではなく。
「母さんのお嫁さんとの子供にもなる、と……」
「うん、そう、その通り」
確かに。
あぁ。
百合の母たちが、子に――あたしに――、乞い願う。
って?
「あたしと先生が結婚するわけじゃ、無いのよね?」
「うん」
「先生も了解してる……んだよね?」
母さんの一存、とは、思えず。
「うん、エリちゃんと話し合って、ゆくゆくは、って」
「ゆくゆくは、なんでしょ? 今すぐじゃなくて」
「そうそう、そこでもうひとつの話なのよ」
きたー。
来やがったぁ。
いや、ひとつめの、その話もどうかとは思うんだけど。
「実は、小坂さんのところの……」
やっぱりー。
もう、あれこれ。
予想通り。
「シズさん、だよね?」
「あ、うん、そう」
「マジ……本気だったのね」
そんな風に、つい、ぽろっと。
「あ、聞いてる?」
「冗談だと思って流してたけどさ」
そして、それを、本人ではなく。
母親を、通じて。
そりゃまあ、未成年だし。
保護者の了解を得て、って意味なんだろうけど。
社会的、世間的に考えると。
うん。
アウトだよ!?
母さんとエリ先生の話は、あたしが成人してから、って事で済むとして。
いや、済むんかい。
母さんとエリ先生の話にしても、承諾していいものなの?
そっちは、まだ、当面保留でいいと思うけど。
シズさんの件は。
「シズさん、年齢的なこともあって、出来れば早い方が良くて、ね」
ですよねぇ。
でも、ですねぇ。
「そもそも、あたし未成年だから、ダメでしょ」
「うーん、一応、十六歳以上なら同意があれば、OKよ」
って、やはり、知ってらっしゃいましたか。
「母さん的にどうなのよ? 自分の子供が、だよ? いいの?」
「そりゃもちろん、思うところはあるし、真綾の気持ちが最優先だから、真綾が嫌なら仕方がないとは言ってあるわよ、でも……」
でも、何ですかー。
もー。
やだー。
正直。
逃げたい。
平穏に。
穏やかに。
心、静かに。
そういった秘め事は、秘めたる内の、奥、深く。
誰にも知られず、って。
思っているのに。
それが、なんか。
母親、家族とは言え、自分とは別の力で。
こじ開けられるのは、何か。
なんか。
腹立つ!