第329話:母さん、五つのお願い
週末、金曜の、夜。
明日明後日は、あたしも母さんも、お休みリッチな夜。
お風呂上り。
母さんに、声をかけられる。
「真綾、ちょっと話があるんだけど」
「ん? なぁに?」
しの女……女子校に通うようになって、母さんとお話する機会が、結構増えた。
晩御飯の時とか、今みたく、その後とかにも。
母さんは、あたしに洋服とか買うのが楽しみでもあるみたいで、お休みの日に、一緒に買い物に行く事も増えたし。
それはともかく。
改まって、何の話かしら、と。
母さんが煎れてくれた、お茶で、一応はくつろいだ姿勢で。
「えっと、ね……」
でも、何かちょっと、もじもじと、歯切れの悪さからの、緊張感。
「こんなこと、自分の子供……しかも未成年の子に話すのはどうかとは思うんだけど……」
あ。
これ。
聞かない方が、いいやつかもしれない。
「だ、だったら、また今度って事にすれば?」
どんな話なのか、わからない、けど。
逃げるが勝ち、って気が、しまくってます。
だから。
「急ぐ話なの?」
今すぐ、必要な話なのか。
そうじゃなければ、先送りでも、いいんじゃないか、な、っと。
「あ、うん、今じゃなくてもいいと言えばいいんだけど……」
母さんも、まだ少し迷っている模様。
言いたいけど、言えない、言いにくい。
多分、そんなところ、か、な。
「できれば早い方がいいとも言われてるし……」
む?
言われてる?
母さん自身の話じゃなくて?
誰かに、頼まれてる?
誰に?
何を?
イヤな予感が、ふと、思い起こされる。
冗談と思い込んで、流してはいたけれど。
何気に、頭の片隅に、心のどこかに。
留まっている。
お花見からの帰り道、シズさん運転の、車の中で。
金髪子先輩と、シズさんの、会話。
『シズは、やっぱり、真綾がいい?』
『はい、できれば』
子供が欲しいと願う、シズさんの。
その、相手と言うのが。
これまた、お得意の冗談とか、あたしへのイジりだとは思っているけれど。
もしかしたら、半分は本気なんじゃないかって。
ぼんやりと、思ったり、思わなかったりしていたわけですね。
でも、果たして、結婚もせず、子供だけ、なんて。
なんか。
違うような。
そんな思いも、ぼんやりと。
それ以前に。
まだ、まだ。
あたしには、って、ね。
そんなあたしの思いを、余所に。
母さんは。
「えと、ふたつと言うか、みっつと言うか……」
え。
ひとつじゃなくて。
ふたつも、みっつも?
「よっつと言うか、全部で、いつつ?」
五個っ!?
何、それ、欲張りセット?
「そ、それで、何の話、なの、かな?」
「あ、えっと、その前に、ね」
まだ勿体つけますか、母上どの。
「わたしとエリちゃ……エリ先生、やっぱり、ね」
お。
いきなり破局?
「正式にお付き合いする事になりそうなの、ね」
逆かー。
「そ、そう……それは、よかったじゃ、ない?」
子供として、生徒として、何とも、言い難い感情もありますが。
ふたりが良いなら。
「ええ、ありがとう。それで、真綾が卒業したら、一緒に住む事になるから」
話が進めば、そうなるんだろうなぁ、とは思いましたが。
より、具体的に、って事だよねぇ。
「それで、ね」
問題は、そこから先の、お話の、模様。
ただ一緒に住む、ってだけでは、済まない話。
いや、すむのにすまないって。
洒落じゃないよ?
それどころじゃ、無いよ。
「子供も、欲しいなぁって」
出た。
やっぱり。
そっち方面の話にも、なるよねぇ。
そして。
推察と言うか、おぼろげに。
母さんの言いたい事に、気付いてしまう、罠。
察しが良いのも、考えものだぁなぁ。
やっぱり早々に逃げるべきだったなぁ。
仕方ない。
話、聞くだけ、聞いてみる、か。




