第328話:漠然と想い描く将来
新年度、新学期初回の八時間目の特別授業。
授業とは名ばかりで、どちらかと言うと、部活動に近い雰囲気もあったり。
新一年生の四人も加わって、またこれ、今まで以上に、賑やかに、華やかに。
見た目は、女子ばかりながら。
トランスジェンダー女子ふたりに、女装男子がひとり。
そもそもは、『男子に慣れない女子が男性に慣れるように』との、名目があって。
あたしがその男子役と言うかそのための男子のはずが。
なんかもう、男子として見てもらえなくなってしまってる感。
とりあえず、当面の活動方針としては。
『女子が男装して、男子の真似をしてみる』
って、ことになったようです。
ある程度、慣れたら、今度はあたしの中学時代の男子のお友達に協力してもらったりすることになるかなぁ、とか、漠然と想像したり。
「じゃあ、早速だけど、週末は男装用のグッズを仕入れに行きましょう~」
おっと。
ぼんやりしてたら、そういう話に落ち着いたみたいで。
今日のところ、初回の八時間目の活動は、これにて。
「お疲れ様でした」
終了。
はふぅ。
ひとが増えたこともあって、それがまた初めてか、初めてに近いひとたちだったんで。
ちょっと、気疲れ?
教室を出て、それぞれ。
エリ先生は、職員室に戻って、まだ少しお仕事。
先輩たちは三人で。
一年生女子ふたりも、意気投合したのか、ふたり仲良く。
トランスジェンダー女子のふたりは、もともと幼馴染ってこともあって、こちらもふたり仲良く。
そしてあたしは。
「それじゃ、お先に失礼します。またね」
ぞろぞろ。
正門前の信号で、再合流した、面々を前に。
信号を渡って、すぐ。
お別れ。
なんだけど。
「え? 園田先輩のお家って、ここなんですか?」
「学校の目の前……!?」
「うわ、いいなー、超近い!」
「なんと……」
あはは。
「うん、ごめんね。だからこの学校選んだってとこもあるんだ」
なんて。
どちらかと言えば、それが一番大きな、志望理由。
「そうそう、だからおかーさんと結婚したらここから通えるよ」
「結婚は卒業後になるから、意味ないけどね」
「下宿も却下されましたしねぇ」
「みんな考える事は同じって事ですね」
「うんうん」
あははー、なんて。
和気あいあい、と。
「それじゃー」
「またねー」
「お疲れ様ぁ」
みんなは、電車通学らしく、駅の方面へ、ぞろぞろ。
「みんなも、気を付けてねー、ばいばい」
そんな風に。
みんなを見送って。
「ふぅ」
早、自宅に帰宅。
うん、これが故に。
最初は女装って、何それって思ったけど。
青信号なら、ダッシュで五秒! だもんねー。
この楽さには、勝るものは、無く。
半分は母さんのせいでもあるけど。
自宅、自室でも女装するのが当たり前になって。
女性らしく。
女らしく。
女の子らしく。
んー。
女らしさって、何だろう?
身体は、男なんだから。
女性の全てを知りえる事は、不可能。
知識としては、知りえても。
感じる事、体験する事は、不可能。
でも。
全く知らないよりは。
相手をおもんばかる事もできるようになる、よね。
だから。
学校の勉強とは、別に。
女性の事を、もっと、もっと。
知識として。
ちょっと恥ずかしい側面もあるけど。
いやらしい意味ではなくて。
ちゃんと。
生理の事とか、女性の身体の仕組みについてとかも。
さすがに。
先輩たちに、直接聞くのは恥ずかしいし、失礼だろうから。
ネットで、色々と調べて。
あー。
いやらしい意味ではないとは言うものの。
もちろん、あたしも年頃の、男の子だし。
全くそういう視点で見ていない事も、無くは、無い。
でも、そこはちゃんと、切り分けて。
他人には言えない、明かせない、個人的な秘密、として。
心に留め置いておくと、して。
東雲女子高校の、唯一の、男子生徒として。
これから、まだ二年間。
女子生徒の、お役に立てれば、いいかな。
そのあとの。
卒業後の事も、そろそろちゃんと考えないといけないところもあるけどね。
なんとなく、校長先生がお勧めしてくれた、教師っていうのも、ぼんやり。
でも、雪人さんみたく、女装ショップで、男性向けの女装グッズの販売とかも、いいかなぁ、なんて。
普通に、男に戻って、普通に、普通の会社に就職するのが一番無難なんだろうとも思うけどね。
はて、さて。
どーしよー、かなー、なんて。
漠然と思っていたら……。
母さんから。
「真綾、ちょっと話があるんだけど」
ん?
なにかしら?




