第327話:男子に慣れるために先ずは男装女子から
入学式でも男子と誤認された、ぱっつん子先輩。
あたしのせいじゃないとは思うんだけど。
ここでもあたしが、女性らしいみたいな話になって、ごめんなさい。
男装して戻って来たぱっつん子先輩は。
時間的にウィッグまで着ける暇がなかったのか、髪は乱暴にまとめて襟の中へ。
そして、ちょっと乱暴に、席に着く。
そんなぱっつん子先輩を、見た一年生たちは。
「男装、ですか……」
「スラックス、かっこいい」
「ぉお、なんかそれっぽい!」
「…………」
九ちゃんだけは特に何も反応ないみたいだけど。
おおむね、好評?
「ふっ」
多くは語らず。
普段のお嬢様気質とは、真逆に。
乱暴と言うか、乱雑な座り方。
足を組んで、背もたれに片腕をかけて、ふんぞり返ったような姿も。
男らしさの、模倣。
「あー、そういえば園田さんを女らしくって言うのと並行して、女子の方も男装して男性を理解しようとかもやってたわね」
思い出したように、エリ先生。
「なるほど、それは思い付きませんでした」
男子が苦手だと言う、一年女子も。
「あれって、誰が言い出したんだっけ?」
振り返ってみると。
そういえば。
「山田くんか森本くんあたりでしたねぇ」
ちょっと記憶があやふやだけど、確か。
「先輩たちが男子に慣れるようにって、あたしの中学の時の男子の友達と色々……」
色々。
遊んでた、と言ってもいいんだけど。
「色々と一緒に活動してたのよ」
一応。
八時間目の、延長線ってことで。
エリ先生も当時を思い出したのか。
「そうね、一年女子のふたりのためにも、また協力してもらいましょうか」
などと、おっしゃいますが。
「ふぇえ、男子と……」
「男子と……」
上谷さんと下谷さんは。
まだ男子は怖いかな。
そんなふたりに、七種さんが、率先して。
「先ずは、男装した先輩たちや、あたし達に慣れてからってところかな?」
九重さんも続いて。
「そうですわね。いきなり本物の男性となると敷居が高いかもしれませんわね……でも、困りましたわね……」
そう、七ちゃん九ちゃんの二人も。
男子要素皆無だからなぁ。
まだ、先輩たちの男装の方が、男子っぽい?
本人たちも、その自覚はあるようで。
「いいじゃん、あたしたちも男装、してみようよ」
「なんですの、それ……意味わかんないですわ」
トランスジェンダー女子が、女子として、男装する。
うん。
たしかに、意味わかんないよね。
七ちゃんは、さらに。
「まきばのみどりちゃんも、みどりちゃんも一緒に、男装、してみようよ」
急に振られた上谷さん下谷さんは。
「ふぇっ、あたしが男装、ですか」
「わたしが、男装……」
多少、戸惑う、けど。
「んー、でも、あんな風に変われるなら」
「そうね、何か、変わる、変えられるきっかけになるかも?」
そんな風に、前向きに。
一年生を、後押しするかのように。
「ぉう、これもなかなか、悪くはないゼ」
ぱっつん男先輩も、男装のまま、クールに決めれば。
「うよーし、じゃあ今度はウチも男装見せちゃる」
「そういえば、ここ最近、やってなかったわね。久しぶりにやりますか」
金髪子先輩とおさげ子先輩も、乗り気。
流れ的には。
「じゃあ、去年は園田さんの女装から始まったけど、七種さんも九重さんもその必要はなさそうだし、一年生の男装から始める事にしましょうか」
エリ先生が、まとめに入る。
そして。
実は、ここに本物の男子が居るって事を。
すっかりお忘れのご様子な、方々。
嬉しいやら、悲しいやら。
まあ、女装した男子が男装するとか、意味わかんないし、いいか。
そう言えば、男装した女子先輩が、女装もしてたっけか。
うん。
ますます意味がわからなくなるから、下手なことは言わずにおこう。
また、ヤブからヘビとか、もっと怖いものが出て来たら、ヤだ。