第326話:今日もスカートですよね
突然、席を外し、教室を出て行ったぱっつん子先輩を、余所に。
ずずぃ、っと、お茶でひと息な、面々。
人数が、一気に増えて。
九人……今はぱっつん子先輩が席を外してるので、八人か。
「急にどうしたのかしら、大里さん」
エリ先生も、不思議そう。
「あぁ、なんとなく、サクラの考え、読めたかも」
「うん、多分、おそらく……」
おさげ子先輩と金髪子先輩は、さすが幼馴染。
ぱっつん子先輩の行動の意図、意味を、察してるのかな?
残された面々は。
お茶しつつ、ぱっつん子先輩の戻りを、なんとなく待つ感じで。
しーんと、会話も途切れちゃってたんだけど。
「えと、園田先輩」
不意に、七種さんが。
はい?
「先輩って、あたしたちみたいな、トランスジェンダーじゃなくって、普通に男子、なんですよね?」
あ。
そこ、ね。
それもだけど。
先輩って呼ばれるの、なんか、こそばゆい……。
それは置いておいて。
「うん。校則で仕方なく女子の制服着てるけど、中身は男だよ」
そんな風に答えてみるも。
「あれ? スラックスもありましたよね?」
のっかって来るのは、上谷まきばのみどりちゃん。
「スラックスは正式には今年からなの。去年も途中からお試しで何度か履いてたけど」
そう答えると。
「でも、今日もスカート、ですよね」
「あー、うん……」
どうしてスカートかって、聞かれると。
「今となっては、お母さんはやっぱりスカートの方が似合ってるよね」
「うんうん。おかーさんらしい!」
って、おさげ子先輩と金髪子先輩が、あたしに代わって勝手に回答しやがります。
「一年前の入学当初に比べたら、ねー」
「見違えたわよね」
「それについては、先生も同意見ね」
先生まで加わって。
「へー、じゃあ、園田先輩は、この一年で、そんなにも?」
上谷さんも、臆せず会話に加わって。
って、下谷さんの方は、あんまり話さない感じかな?
九ちゃんも、あんまり喋らないタイプかも。
「半年もかかかってなかった気がするー」
「そうね。夏頃にはもう、すっかりお母さんだったような」
せんぱーい。
「うーん、確かに、その頃か、もう少し前だったかも?」
先生まで……。
自分でも、自分の変化が、いつ、どこで、って、あんまり。
意識してなかったし、いつの間にか、って感じ、よねぇ。
なんとなく覚えてるのは、菅原のレイちゃんに会った頃、かな。
てことは、やっぱり夏ごろか。
「正直……」
ぽつり。
今度は、九ちゃんが。
「わたくしたちより、ずっと女性らしい雰囲気があって、ちょっと嫉妬してしまいますわ」
ずこーっ。
「いやいや、九重さん達みたいに女性化の治療までしてるわけじゃないし、足元にも及ばないよ」
実際。
治療のかいもあるのか、もともとなのかはわからないけど。
七ちゃん九ちゃんふたりとも、あたしみたくはっきりした男声じゃなくて、わりと女性に近い声質だし。
「そう言えば、その……ずばり聞いちゃいますけど、そのお胸は盛りブラですか?」
今度は、七ちゃん。
「あー、これはね」
さらっと。
女装用のグッズ、その販売店、雪人さんのお店を、少し紹介。
「ふわぁ、そんなグッズまであるんですねー」
上谷まきばのみどりちゃん。
なかなか、アクティブで、臆さない娘、だね。
まぁ、普通の女子なら、知らなくて当然、か。
いや、普通の男子でも、知らないか。
「そっかー、下着もちゃんと女性用なんですねー」
「うん、まぁ……」
そこも気になりますよねぇ、やっぱり。
「最初の頃の活動は園田さんをより女の子らしく、みたいなところが大きかったわね」
お、さすが先生。
うまい具合にまとめにかかりましたね。
とか。
また一区切りついた頃合いを、狙ったかのように。
『がらっ!』
っと、教室の扉が、荒々しく開かれ。
「待たせたゼっ、みんなっ!」
ぱっつん男先輩、登場。
あぁ、男子モードにお着換えに行ってたのか。
「あ、やっぱり」
「男来たー」
って言うか。
相変わらず、持ち歩いてるんですね、男装グッズ……。