第325話:真綾はみんなのお母さん
新年度、八時間目の新しくメンバーとなった、一年生。
上谷さん、下谷さんの、女子コンビと。
七種さん、九重さんの、トランスジェンダー女子コンビ。
軽く顔合わせして、簡単な自己紹介のつもりが。
上谷さんの一風変わった名前からの突発イベント?
期せずして『男子が苦手な女子』の理由が、早速開示されまして。
上谷さんは、そのちょっと特殊な名前から。
下谷さんは、体形? って話だけど。
そんなにイジメられるような体形には見えないんだけどなぁ。
むしろ、スタイルは、とっても良い方だと思う。
ただ。
特定部位に関しては、ぱっつん子先輩並みに、あるように、見える。
逆に、その部分でイジメられたのかな?
こういうのも、繊細な話、だよねぇ……。
なかなか、訊き辛い。
と、まあ、そんな流れで一区切り着いて、席に戻るところで。
「あ、お湯、沸いたみたいなんで、お茶淹れますね」
と、いつもの流れも、組み込んでみたりしてみる。
すると。
「よろしく、おかーさん」
「ありがと、お母さん」
「お母様、ありがとうございます」
先輩たちの、相変わらずな反応に。
「あのー、なんで園田先輩がお母さんなんですか?」
素朴な疑問の、上谷さん。
他の一年生も、首をコクコク、同意の様子。
そりゃ、そうか。
そんな一年生に、三年の先輩方が。
「そうね、料理も上手いし」
「お母様みたいな細かい小言がよく出ますし」
「今みたくよく気が利くしー、なんとなくおかーさんっぽいの」
言いたい放題!?
むぅん。
「あたしもそう思います」
「確かに、なんとなくその様な印象はございますわね」
七ちゃん九ちゃんも、先輩たちに、同意、って、おぃおぃ。
「あー、なんとなく、解ります、それ。入学式の男子当てクイズでもこの人は絶対女の人だと思いましたもん」
そんな上谷まきばのみどりちゃんの、ご意見に。
「わたしも、最初、園田先輩は絶対女子だと思いましたね」
さらに、下谷さんも追従すれば。
『ゴンっ!』
なにやら、席の方から、大きな音が。
振り向いてみると。
ぱっつん子先輩が、机の上に額をぶつけて、見事に撃沈されてますね。
「サクラ、大丈夫?」
おさげ子先輩が、ぱっつん子先輩の背を、優しくなでなで。
なのに。
「サクラより、おかーさんのが、おかーさんぽいって事だよねー」
追い打ち、金髪子先輩。
ひどい。
「うぅ……」
机に突っ伏して、ぱっつん子先輩が、うめくのを見て。
「あ……ごめんなさい」
「すすす、すみません、ごめんなさい」
上谷下谷の上下コンビも、慌てふためく。
「こうなりましたらっ!」
がばっ、と、ぱっつん子先輩が、起き上がって、そのまま席から立ち上がって。
「ちょっと席を外させていただきますわっ!」
そう言って。
カバンを手に。
教室から飛び出してゆく、ぱっつん子先輩。
「ちょ、大里さん!? どうしたのっ!」
先生が呼び止めようとするも、お構いなしに。
教室の扉を閉めて、出て行かれました、ね。
仕方ないので、とりあえず。
「えっと、お茶、煎れました」
先生と先輩たち、それにあたしは、自前のカップ。
「一年生のみんなは今日は紙コップでごめんね。今度、自分のカップを持って来るといいよ」
そう言いつつ、みんなの前に、お茶を置いて行けば。
「ありがとうございます! 確かに、立派なお母さんですね!」
上谷さんに、またも皆さん、首コクコクの、ご納得。
ひぃい。
って言うか。
ぱっつん子先輩、どこ行ったんだろう?