第320話:先生は同意書に同意できません
同意書。
雪人さんのお店のWebサイトに掲載されていたもの。
あらかじめ同意の上、どういった事をするのか設定して、その通りに実行しよう、と言う文書?
直接的にはあまり言いたくないものの。
まぁ、ようは、男女の触れ合い方についての、あれやら、これやら。
どうも、雪人さんとアカネさんが実際に使ってたモノっぽい。
「はい、これ、コンビニのコピー機でプリントしてきました」
「一部が雪人さんオリジナルで、もう一部がウチらで修正したヤツね」
携帯端末の小さな画面じゃ見にくいだろうって事でしょうね。
用意周到、おさげ子先輩、ナイスです。
カバンから取り出したコピー用紙を、エリ先生と、あたしに手渡され。
先輩たちは自前で持ってるみたいで、それぞれカバンから取り出して。
あたしは一度画面で見ているので、おおよその内容はわかってるけど。
やっぱり、改めて見てみても、雪人さんのこれは。
そのままだと、えげつない、よねぇ……。
そして、そんなえげつなさを、エリ先生は。
「何よこれ! こんなの学校に持って来ちゃダメでしょ! 何考えてるのよあんたたち」
これまた、一刀両断。
だがしかし。
先輩方も、ただ切られるわけもなく。
「だから、修正版はCのところは全部カットしてるし」
「Bのところもマイルドにして拡張してるでしょ」
見比べてみると、同意書の文章そのものはほぼ変わらないものの。
別紙付表の方の、記述や図解が、かなり変わってる。
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別 表 (1)
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氏名 氏名
行為者:
承認者:
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行 為 計 画
開始予定日時: 年 月 日 時 分~
予定行為:
□直接 □着衣
□B01 □B02 □B03 □B04 □B05
□B06 □B07 □B08 □B09 □B10
□B11 □B12 □B13 □B14 □B15
□B16 □B17 □B18 □B19 □B20
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い、いつの間に……。
おっしゃる通り、Cがなくなって、Bの内容もかなり変わっている。
別表の方も簡素化されて、図解も大きく変わっている。
オリジナルでは四十九個の図だったものが、簡略化したヒトの正面と後ろ姿の、ふたつ。
その図の各部位に番号が示されている。
肩が01で、頬が02とかって感じで、前後あわせて、16番まで。
なるほど、どの部位に触れるかを、あらかじめ『同意』しましょうってことなのね。
17~20はハグとか、おんぶとか、動作だね。
しかし、あたしが居ないところで、三人でこれを?
うーむ。
この熱意を勉強方面に向けた方がよくないですかね、先輩方?
と、あたしが突っ込まなくても、そこはわかった上で、って、事よね。
でも、先生のおっしゃる通り。
この、雪人さんと言うか、多分、アカネさんオリジナルの内容は。
「没収よ、没収、こっちのオリジナルのは完全アウトよアウト」
そう言いながら、先輩たちとあたしから資料を取り上げる、エリ先生。
「まったく、まだ未成年で学生なんだから、こういうのは成人になってからにしなさい」
意外と。
普通に、大人の先生の対応だな。
なんか乗って来て、悪乗りするかとも思ったけど。
「それに、親の気持ちも考えてみることね。自分の娘が、こんなもの見てたら、どう思うか」
はぅうん、って、感じで。
先輩たちも、反抗は、せず。
しょんぼり、素直に資料を先生に、渡す。
「まぁ、そっちの改良版の方は、女子校の女子同士の悪ふざけ程度ってところで許してあげるけど」
先生は、回収した資料を重ねると、もともと持っていた他の資料に挟んで。
「ただしこっちの改良版も『直接』とか無しよ、無し。服の上からならいざしらず」
「でも、ほっぺとか、腕とかは直接でもいいでしょ別に」
ここは先輩も反論。
「うっ、そっか、それなら、直接NGの項目をちゃんと明示しなさい」
「はーい」
ここは先輩も、納得?
「あと」
先生、まだ何か?
「一応、オリジナルの資料のURL、教えておいて頂戴。今度雪江さんたちと会う機会があるから、この資料のお話も訊いてみるわ」
「はいはーい」
どういう意図で?
と、言うか、母さんとふたり、雪枝さんと美里さんに会いに行くって言ってたな、そう言えば。
それはいいとして。
この同意書、ほんとに使うの?
まぁ。
同意しなければいいだけ、かな?