第32話:女装専門ショップの店員さんに訊いてみた
「いらっちゃいまちぇー」
またまた。
お出迎えしてくれるのは、美幼女。
今日は淡いピンクのワンピース。
少し長めの髪はツインテールにしていて、歩くたびにゆらゆらと揺れている。
ウチのウィッグと違って、地毛なんだろうなぁ。
「こんにちは、アキラちゃん」
「むぅ、アキラちゃんちなーう。アキラくんだもー」
あ? え? お?
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませ」
例の店員さんご夫妻もお出迎えしてくれる。
その、奥さんのような旦那さんの方が。
「お母さんから連絡もらってるよ」
「あぁ、すみません。ありがとうございます。その……よろしくお願いします」
「じゃあ、こちらへどうぞ」
話の内容的に、店先では、と、店の奥へと移動。
ちなみに。
「アカネ、店番とアキラ番、よろしく」
「あいよー、おまかせー」
幼女アキラくんは、店員さんの奥さん(女性)に回収されました。
激しくややこしいわっ!
「狭いところでごめんね。そこ、座って? コーヒーでいい?」
テーブルにパイプ椅子がよっつ。
まわりの壁には棚があって、荷物、と、言うか、これ商品だよね。いっぱい物が積み上がってる。
一画に、流し台があって、ポットでインスタントコーヒー。
「あ、はい」
答えながら、パイプ椅子に座る。
ちなみに。
母ちゃん命令で、今日は女の子用の私服。
濃い青……藍色? の、スカートとベージュ色の半袖ブラウスに薄い白のカーディガン。
女子高生的には質素と言うか、大人しいめ?
いや、女装男子ならこれでも派手だよ?
「はい、コーヒーどうぞ。今日は可愛い格好だね。いいね、似合ってる」
「そ、そ、そうですか? あ、ありがとう、ございます」
しどろん。もどろん。
前にもあったか? しどろんもどろん。
「それに、座り方とか、うん、けっこう、慣れてきた感じかな?」
「そ、そ、そうですか? あ、ありがとう、ございます」
いや、なにリピートしてるんかな。
ひとりだし、やっぱりちょっと緊張する。
母ちゃんにも一緒に来てもらえばよかったか?
『女装男子同士、オンナのお母さんには話せないこともあるでしょうし?』
ってことで、単騎突入を余儀なく。
テーブルを挟んで向かいの椅子に座った、店員さん。
そういえば、名前、まだはっきり聞いてなかったかも?
息子さんの名前と奥さんの名前は漏れ聞いてわかってるけど。
その店員さんが、コーヒーを一口つけてから。
「それで……お母さんからは『女性らしい話し方』や『女性らしい考え方』について、アドバイスが欲しい、ってことで?」
「あ、はい」
「んー、えっとね……」
ごくり。
なんか、極意とか、あるのかな?
「結論から言うとね」
極意!?
「必要、無いよ」
え?