第316話:エリ先生と一緒にお風呂
入学式が終わって、明日はもう、始業式。
明日っから、学校が、始まる。
のに。
「さて、じゃあ夕飯、作りますね」
「はーい、よろしくー」
食べる気まんまんの、エリ先生。
学校帰りにうちに立ち寄って。
あたしとちょっとお話するって目的もあったけど、それはわりと簡単に済ませて。
夕食を食べるのもあるけど、母さんに会うってのも、先生の目的、だろうなぁ。
なんてのは、簡単に推察できてしまう。
「やっぱり、雪枝さんと美里さんの話に感化された感じ、ですよね」
お料理しながら。
キッチンとダイニング、リビングが繋がってるので、ちょっと声を大きめに出せば。
「うんうん、女性同士とか、考えもつかなかったけど、実物見るとアリかなーって盛り上がったのも間違いないよ」
あたしも驚いたもん。
雪枝さんと、美里さん。
女性同士で。
最初から、ってわけじゃなくて、共同生活を送ってる中でって事だったらしいけど。
「わたしも、お姉様も男性に慣れてないってのもあるしねー」
だからこそ?
先輩たち含めて、あたしを練習台にしたんですもんね。
でも?
「あたしを練習台にして、男性にはもう慣れたんじゃないんですか?」
あたしの中学時代の友達とかとも、普通に絡めるようになってるし。
「だって真綾は、ねぇ……それにあの子たちも真綾の友人だからってフィルターがかかってるところもあると思うよ」
あぁ……。
「それは……光栄なのか、役に立って無いって言うのか……」
「あはは、確かに、役立たずだ」
ずばり言いますね、このひと。
なんかちょっとイラっとしてきた。
先輩たちにも、おかーさんとか呼ばれて、イジられてるし。
むぅ。
「そうそう、先輩たちからも、おかーさんとか呼ばれてイジられてますからね」
「あー、なんかそんな風に呼んでたね、あの子たち」
入学式のドタバタで、エリ先生とその話もできなかったけど。
先輩たちが、あたしをおかーさんって呼んでるところは聞いてたみたいね。
「そうなんですよ。なんか、あたしが、おかーさんっぽい、って」
「なんかそれ、すごくわかるー」
やはり。
先生もそう思われてましたか。
だからこそ、スルーしてたとも言えなくもなさそう。
むぅ。
イジられてばかりじゃ、ね。
ここは。
反撃っ。
「じゃあ、晩御飯終わったら、母さんと三人で一緒にお風呂に入りましょうか」
「へ?」
「母と娘三人、仲良くお風呂、いいんじゃないですか?」
「へ?」
母さんとエリ先生が『結婚』したら、あたしは先生の娘になるわけだし。
あたしが、エリ先生の『かーさん』なら、母と娘ってことだし。
それを想定して。
「将来、あたしたちが家族になるんだったら、家族で温泉旅行とかして、家族風呂で混浴、なんて事もあるかもしれませんよ? だから、その練習ってことで」
言うだけ言って、振り返ってソファのエリ先生を、見てみたらば。
あんぐり、ぽかーん。
みたく、目と口を、大きく開いて、でも、すぐに意識を取り戻した様子で。
「いやいやいやいやダメダメダメダメ」
嫌、と言うよりは、否。
嫌悪と言うよりは、否定、って感じの いやダメ、かな。
「なーんて、さすがに今はダメですけど、あたしが『しの女』を卒業したら、いつかは、ね?」
「あー、やー、あー、うー、あー、あー」
先生、なんか、変な音を出すお人形さんみたいになってますね。
いい気味っ!
そして、ちょっと可愛い!