第315話:実は真綾もかなりの天然だったらしい
入学式の日の、夕方。
校内では、なんだかんだと忙しいエリ先生と、ゆっくり話す事、叶わず。
下手をすると、先輩たちにも居座られそうになったけど、なんとか先輩たちにはお引き取り頂いて。
夕刻。
仕事の終わった先生が、我が家へ。
いや、なんで、鍵かけてんのに、するっと入ってきますかね。
おそらく、母さんが合い鍵を渡したんだろうなぁ……。
それに、来た早々。
「やっとおわったー、疲れたー、お風呂ぉ」
って。
一時期、あたしん家のお風呂を貸してた事もありましたが。
あの時は、先生がお風呂に入るのは、母さんが居る時で、あたしは先生の部屋……学校の宿直室に移動って事だったような。
いいの?
「だめでしょ」
何を思ってそんな事を言い出したのやら?
「えー、いいじゃない。バレなきゃ大丈夫っ」
「母さんにはバレますよ、多分、シャンプーとか石鹸の匂いで……」
「あぁ……」
母さん、ほよっとしてるけど、ルール順守! とか、結構うるさいからねー。
「そういえば、玄関の『園田の湯』の看板、付けっ放しだね」
「へ?」
あ。
あぁあああ。
母さんとネタで作った看板。
外すの忘れてたか。
あたしも母さんもすっかり。
見落としてたのね。
「まぁ、仕事帰りにひとっ風呂って時に便利そうだし、そのままでいいよ」
よかねーよ。
それより。
「母さんと付き合い出したって話で、なんかちょっと浮かれてたりします?」
そう。
いきなり合い鍵で入ってきたり、お風呂とか言い出すのは。
そのあたりが影響してるんじゃないか、って、推察。
「あははははー、まー、そー、ねーぇ」
ぽす、ぽすっと。
ソファにカバンと自身の小さな身体を投げ出して。
「で、沙綾お姉様から、どこまで聞いた?」
お姉様って……。
それに、どこと言われても。
「お花見からの帰りの車で、母さんとふたり、なんか盛り上がってお試しでお付き合いすることになった、って、だけですけど」
「ふむふむ、帰りに寄り道した話は聞いてないのね?」
はい?
「どこか立ち寄ったんですか?」
「あー、聞いてないならいいよ。うん、ちょっと、寄り道して休憩しただけだから」
ふむ?
車で走行中に、休憩、と言ったら。
サービスエリア、パーキングエリア、あとは、一般道なら道の駅とかあるかな?
飲食なら、それこそ道路脇のファミレスとかコーヒーショップとかもあるだろうし。
そういうところでお茶したり、食事したくらいなら、なんて事は無いよね。
「それはいいとして、先輩たちとか、他のひとには内緒なんですよね?」
一応。
お話しながら、エリ先生に、飲み物も、ご提供。
「んー、ぷはぁ。なにとぞご内密に」
先生、ソファでふんぞり返ってたけど、一応、姿勢を正して。
「って、こんな風に家に入り浸ってたら、すぐにバレますよ? それに、母さんとウワサになる前に、あたしとウワサになりかねないし」
「平気平気、もう何度も来てるし、わたしも真綾も他の先生たちには信頼されてるからねー」
甘い!
甘すぎませんかね?
仮にも、男子のあたしと、ふたりきり。
…………。
って、確かに、何度もあったよね、そういう場面。
何かしようとも思わなかったし。
何もするつもりはないけど。
危機管理的に、どーなんでしょうか?
例の、先生がお風呂に入ってる時は、物理的に席を外せって言うのも。
そういう危機管理の一環だと思うし。
他の先生たちは内情を知ってるだろうから良いけど、学校の正面だから他の生徒に見られたらって言うのもあるよねぇ。
このままズルズルって言うのは、まずいような気がする。
お姉様とか言い出してるし、母さんと先生の仲が、本格的になったとすると、果たして?
あぁ、でも、なんか。
バレるバレない以前に。
ふたりのイチャイチャを見せつけられてストレスマックスな未来が。
ほのかに見えたり、見えなかったり。
それもそれで。
なんかヤだなぁ。
むぅ……。