第307話:ブレーキ
夕暮れ時。
まだ、別荘から帰宅途中の、車中。
なんだかんだと、イジられまくってしまったけれど。
やっと、お家に帰れる……。
「じゃ、サクラ、ツグミ、お疲れさまー」
「お疲れ、ミリィ、シズさん、それにお母さん」
「お先に失礼致しますわね、お母様」
いつの間にやら、お母さんな、あたし。
まだ、引っ張ってるよね、この人たち。
いつまで続くんだろう?
でも、そこは、スルーして。
「お疲れ様でした、サクラ先輩、ツグミ先輩」
ばいばーい、と、手を振り合って。
おさげ子先輩と、ぱっつん子先輩には先にお家の近くで降りてもらって。
あたしはシズさんに、送ってもらうんだけど。
「ミリ先輩も降りればよかったのでは?」
そう、お三人さん、家もすぐ近くのはずなので、金髪子先輩も一緒に降りると思ったけれど。
「シズがおかーさんを変なところに連れ込まないか、監視~」
とのことで、同乗。
「変なところとは、どんなところでしょう、お嬢様」
シズさんも深掘りしないで欲しいです。
「さぁ、どんなところだろーねー?」
知ったかぶりの金髪子先輩。
さすがに。
「あ、お嬢様、もしやこういったところでしょうか?」
なんとも。
偶然にも、保土ヶ谷状態で。
信号待ちで止まった、道路のすぐ脇に。
「あー、そうそう、こういうとこ」
やめてぇ。
「お立ち寄り致しましょうか?」
やめてええええええええ。
「あはは、今日はやめとこうかー」
いや、もう、ホント、やめて……。
あうぅ、真綾のHPはもうゼロよ……。
「はい、では、よしなに」
信号が変わって、走り出す、車。
それからは、比較的おとなしくしてくれている、シズさんと金髪子先輩。
ゆる、ゆると。
近付く、我が家。
はぁ。
もぅ、早く帰りたい……。
早く帰って、お風呂入って、お肌のお手入れしたいー。
あと。
うん。
昨日から今日にかけて。
色々ありすぎたのもあるから。
心も身体も、整理したいところ。
母さんの件も、しかり。
今もだけど、先輩たちやシズさんが何故かグイグイ来る件。
多分。
先輩たち、男性に慣れてなかった、怖かったのが。
あたしと言う、特異な存在を介して。
逆に、興味を持ち始めた、って事なのかなぁ、と、推察。
シズさんもそうだけど、雪枝さんや美里さんの話、それに母さんの話から、そっち方面への興味も、って感じかなぁ。
はぁ。
こうやって、冷静に、分析してみたりしたりしてるけど。
あたしもまた、心穏やかではなく。
いっそ、男としての本性を解き放って。
犯罪にならない範囲で。
そうそう、例の『同意書』も、そういう意味では。
同意の上で、共に納得しているので、あれば、なんて。
ちょっと、期待をしている部分も、無きにしも、非ず。
実際、できるかどうかは、その時次第?
どうしても、良い子で居るために、心に制動がかかって。
自分でも、積極性が乏しいのは、わかってるけど、ね。
ぼやぁん、と、そんな事を考えて、居たらば。
「きゃっ!?」
かくん、と。
車が、停止。
物理的に、急制動。
「うわったく、急に前に割り込んでくんなー」
どうやら、隣の車線から、急にあたしたちの車の前に割り込んで来た車があったようで。
シズさんの、ナイスブレーキ。
幸い、後ろから追突される事も、無く。
「ノーウィンカーでしたしね……怖かったですが、止まれてよかったです」
運転しているシズさん自身も、大事に至らず。
あたしも、金髪子先輩も、シートベルトはちゃんと締めてたので、事なき。
「安全のために車間を開けると、そのスペースに割り込まれる事も多いですからね……」
シズさんの、ご感想。
なるほど。
まだ、免許を取るのは先だし。
そう言った運転の技術は。
母さんやおじいちゃんに教われば、いいかな。
あぁあ。
そうか。
そうだ。
先輩たちやシズさんが言ってるような、そういう系統の教習とか、免許とかも、あればいいのになー。
無いかな?
無い、よねぇ……。
誰かに相談してみたいけど。
先輩たちや先生は、さすがにマズいだろうから。
かと言って、中学時代の男友達は、一番恥ずかしい、かも。
そうなると、雪人さん? アカネさん?
それか、やっぱり、母さん?
うーん、誰に相談するのが、良いかなぁ……。