第302話:シズさんへのお土産は
展望台は。
「見晴らし台?」
そう、絶景! とか、荘厳! とか、壮観って感じでもなく。
ただ、見晴らしがいいだけの、場所。
「まぁ、あちこち桜が咲いてて、ややキレイ?」
と、まあ、見晴らし台自体にも桜が咲いていて、ロケーションとしては、微妙ながらそれなりの、評価。
でも。
「ん、お陽さまも温かくて、少し風が出てて、いい感じ」
てことで、及第点?
「しっかし、安産祈願に子宝祈願かー」
金髪子先輩は、ロケーションよりも、さっきガチャったお守りを目の前にぶら下げて、そんな感想。
「もっと普通に家内安全とか、それこそ合格祈願とか無かったんでしょうかね?」
おさげ子先輩のおっしゃる通り。
先輩たちの分、三個。
まとめて子宝って。
「んー、もしかして、この神社って、そっち系?」
そっち。
どっち?
神社毎に、祭られている神様の、得意分野が。
いわゆる、子宝、安産、つまりは、妊娠、出産に、特化してるって。
その可能性も、あるけど。
境内にはそれっぽい事は書いてなかった気もする。
「でも」
見晴らし台の、端で、桜咲く背景の前にお守りを見つけていた 金髪子先輩が。
お守りを両手で握りしめて、あたしの方を向いて。
「せっかくだし、その時が来るまで大事にしないと、ねー」
そんな風におっしゃるのにあわせて。
「そうだね」
おさげ子先輩。
「はい、大事にしたいですわね……」
ぱっつん子先輩。
三人、あたしの前、並んで。
「おかーさんも、それ、大事にしてねー」
なんて。
なんで?
その時?
まぁ、先輩たちも、女性だし。
将来。
そんな時も、いずれ。
って、事かな?
あたしの場合は、自分が、じゃなくて。
いつか。
そんな相手が。
うーん。
全然、イメージできないけど。
せっかくだし、って言うのは、わかるし。
お守りだし。
簡単に捨てるのは、なんか罰が当たりそう、だし。
あぁ、自分と言うよりは、母さんが。
結婚して、あたしの弟か、妹か。
そっちの方が、先かも、ね。
うんうん。
それよりも。
今日の、この日の、記念、ってところもある、かな?
とか、とか。
見晴らし台で、少し、くつろいでいたら。
ぴろろーん、と、誰かの端末の、着信音。
「あ、シズだ」
金髪子先輩のだった模様。
「はいはーい、シズ、起きたー?」
『…………』
シズさんの声は、聞こえないけど。
「あはは、気にしなくていいよー」
金髪子先輩の、話で、なんとなく。
「うん、今、ちょっとお散歩してる。そう、神社」
シズさんとの、会話がうかがい知れる。
「あぁ、下り坂だし、一時間もかかんないと思うよ。うん、お昼くらい。お昼? お昼ご飯?」
ちらり、と、金髪子先輩が、あたしたちの方をうかがって。
「食べるよね?」
うんうん、と、頷く、あたしたち。
「食べる食べる、うん、うん、よろしくー、じゃあぁあとでねー」
ぷちっと、通話を終えて。
「シズ、起きたって。お昼ご飯準備して待ってるって。帰ろうかー」
おおむね、会話の通りの内容ながら、念のため説明しつつ、歩き出す金髪子先輩に。
「だね、帰ろ」
「ですわね」
続く、おさげ子先輩とぱっつん子先輩に、あたしも。
「はーい」
見晴らし台を、後にして。
一度、神社の方へと、戻る途中。
例の、お守り販売機の、前を通る時。
「っと、そうだそうだ。シズにもお土産、お土産」
金髪子先輩が、そんな事を、言い出して。
「ひとり百円づつで、ウチ二百円出すわー」
有無を言わさず。
「次に何が出るか、楽しみだね」
「ええ、興味ありますわね」
あぁ。
シズさんのお土産は、体裁で。
子宝祈願と安産祈願以外の、何かが出るか。
お試し、って事、ね。
なら。
「はい、じゃあ、あたしも、百円」
金髪子先輩にコインを集めて。
金髪子先輩が、五百円玉に、変えて。
「どれがいいかな?」
「ここはやっぱり、お母さんが」
「ええ、そうですわね。お母様にお願いしましょう」
うぇえい。