第300話:神社へと続く道、そして階段
金髪子先輩の別荘近く。
近くとは、言えど、坂道を徒歩で小一時間。
桜咲く山道を、お花見がてらのハイキングは。
元来の計画には、無く。
シズさんが起きて来ないための、時間つぶしの側面もありつつも。
八時間目のメンバーで。
あぁ、エリ先生は、昨日、母さんと一緒に先に帰って、今は居ないけど。
そう言えば。
母さんも。
昨日、エリ先生とふたりで帰ったんだけど。
よくよく考えて、みたら。
あたしと一緒に帰るより。
家に、ひとり。
うん。
昨日の事もあったし。
母さんも、ひとりで考える時間があった方が、よかったかもしれない。
それは、先輩たちか、シズさんか、それともエリ先生か?
誰か、もしくは、みんなで相談して?
母さんに配慮してくれたのかも、しれず。
皆まで言わず、とも。
なんとなく。
このひとたち、あたしの周りのひと達の、優しさを、感じる事ができる。
晴れ渡る青空に、咲き誇る、桜の樹たちも、また。
同じように、優しい風を、届けてくれている。
んが、しかし。
「暑ぃ~」
台無しですよ、金髪子先輩?
あたしのこのいい感じのメンタルを返して?
とは、言え。
この、だらしなさも、また。
先輩の、先輩たちの、良いところ。
かな?
おさげ子先輩も、タオルで顔や首回りの汗を、拭きながら。
「これもう、夏よね、夏。春何処行った?」
「はぁ、はぁ、んぐっぅ」
体格がいいのが、災いなのか、ぱっつん子先輩は、すでに言葉にならぬくらいに苦しそうに。
ペットボトルのお水も早々に飲み切ってしまってましたが。
幸いな事に、途中のベンチ付近に自動販売機が置いてあって。
そこで追加のお水なども、補充して。
やっとたどり着きましたるは、小さな、神社。
の、入口の、階段。
これが、また……。
「さぁ、もう少しだー。あとはコレ上るだけみたいよー」
金髪子先輩が、おさげ子先輩とぱっつん子先輩に、トドメ?
驚くような段数では、ないけれど。
坂道を上って来て、そこからさらに、ですもんね。
かく言う、あたしも。
ちょっと足が痛くなって来たかも。
「しょーがない、おかーさん、サクラ押してやって。ウチはツグミ押してのぼるわー」
そう言って、金髪子先輩はおさげ子先輩の後ろのまわって、両手で背中を押して、階段を上りはじめる。
「おぉっと、ミリィ、あんがと」
体格差で考えると、金髪子(小)先輩がぱっつん子(大)先輩を押すよりも、おさげ子(中)先輩の方がって感じ?
あたし(中)ならぱっつん子(大)先輩の方が、差が少ない?
それは良いんだけど。
「お母様、よろしくお願いいたしますわ」
ぱっつん子先輩も、その気なのか、あたしの前に立たれましても。
これ、例の同意書とか作らなくて大丈夫ですかね?
「ほら、ふたり先に行っちゃいますわよ」
あうぅ。
女の子同士なら、そりゃ、気兼ねなく触れられるんでしょうけど。
まぁ。
前じゃないし、後ろだし。
えぇぃ。
「じゃぁ、行きます、よ?」
「どんと来やがれ、ですわ」
それでも、そぉっと。
ぱっつん子先輩の、大きな背中に。
ぴとっ。
両の手のひらを、あてて。
はわわ。
背中なのに、なんでこんなに柔らかいのか。
うぅ。
それに、ぱっつん子先輩の、体温が、もろに手のひらに伝わって。
「どうしまして? もっとしっかり押して下さいな、お母様」
後で文句言わないで下さいね?
と、言うか。
母親なら、娘にも。
気軽に触れて、いいのか、な?
えぇい、もう。
「い、行きますっ」
少し力を込めて。
腕だけじゃなく、足、腰も、使って、前へ!
その勢いに合わせて、ぱっつん子先輩も、歩き出してくれるんだけど。
あぁあ。
当てた手の位置が、少し悪かったのか。
手のひらの下の方が、当たってる。
ブラのストラップと言うか、バンドに当たってるのが、わかっちゃう……。
ひぃ。
「ほらほら、お母様、どうされまして? ミリィとツグミがどんどん先に行かれてしまいますわ」
この状態で、負けん気を出さないで欲しいところですが。
ご本人は、全く、気にされていない、模様。
ならば。
ここは、あたしも。
「わ、わかったわよ、サクラちゃん、追い上げます、よ!」
「はい、参りましょう、お母様っ!」