第30話:オレの名は
「膨らみ、髪型、仕草。お化粧はまあ、七時間目の授業でおいおい、勉強するとして……」
ちなみに。
女性らしい膨らみは、おさげ子先輩の提案。
女性らしい髪型……ウィッグは、ぱっつん子先輩の提案。
このふたつは、近所にあった女装専門ショップでお手軽入手。
そして、女性らしい仕草については、金髪子先輩の提案。
これはわりと苦戦しつつも、歩き方とか、手や身体の動かし方とか、金髪子先輩や母ちゃんのレクチャーも交え、さらに日頃の観察で。
いや、他の女の子をまじまじと見続ける訳にはいかんので。
できるだけ視線を固定せずに。
いろんな女子の、いろんな仕草を、ちら見して学び。
クラスでは相変わらず、ボッチを決め込んでいるが。
まわりの女子もある程度慣れてくれたのか、奇異の目で見られるコトは少なくなって。
ただ、まだ。
女の子らしさを際立たせる、ひとつ。
ロリ先生の指摘。ロリ先生の提案。
「喋り方。話し方、話し言葉、それが全然、出来てませんっ!」
「いやぁ、まぁ、こればっかりは、ねぇ……」
仕草もそうだけど、長年、男として生きた中で培った、男としての矜持。
なかなか矯正できるものじゃ、ないですよ?
「何より、先ずは一人称よね」
「『オレ』は無いですわよね」
「うん、せめて『ボク』?」
「ぉお『ボクっ娘』はアリかも?」
またオレ抜きで話が進む。
勝手にやってもらって構わないっちゃ構わないんだけど。
『ボク』は、無いな、『ボク』は。
ならまだ『わたし』の方が、マシか?
いや、それもなぁ……。
「お上品に言うなら『私』ですわよね」
ぱっつん子先輩は、まあ、お嬢様風、お上品風。
「えー? ウチみたく『ウチ』でいいんじゃ?」
何故か、元気印の金髪子先輩は、似合わないようで似合ってる感。
「まぁ、順当に無難に、『わたし』でいいんじゃない?」
可も無く不可も無く、ごくごく普通に、おさげ子先輩。
「んー……『あたし』『あちき』『あっし』……他に何があるっけなぁ?」
ロリ先生は、迷走中。ご愁傷様。
「あ」
そして、ロリ先生が何かを思いついた風。
いやな予感しか、無い。
「名前よ、名前。自分のコトを自分の名前で呼ぶ娘も居るじゃない?」
「それだけは絶対やめてくれ」
真綾、困っちゃうっ!
おぇええええっ。
それでなくてもこの名前でイジられるんだからな。
自己紹介でも下は名乗らなかったし。
てか、母ちゃんがオレの名前を呼んでたのを聞いてたハズなんだが。
「真綾ちゃん」
「まーやちゃん」
「まぁやちゃん」
「まやちゃん」
「連呼してんじゃないよ! しっかり覚えてんじゃんっ!」
ここまでイジられなかったのは、先輩方のやさしさなのか?
いや、まぁ、今まさにイジられてますけど!?
「名は体を露わにする」
いやいや、金髪子先輩。何言ってますやら。
「ウチも『ミリィ』で、ミリ単位小さいしー」
いやいや、金髪子先輩。何言ってますやら。
「やかましーわーっ! 誰がミリ単位よーっ!」
いやいや、金髪子先輩。自爆ボケ?
「ツグミんは、あんまり喋らないって訳じゃないよね?」
「鳥のツグミは、冬の間はあまり鳴かない、クチを噤むけど、夏場はきれいな声で鳴くのよ? 日本には冬に来るから、鳴き声を聞くことは稀だけどね」
ほー、そうなのか。
「サクラは……ぱっと咲いて、ぱっと散る?」
「散らすんじゃありませんわよ」
「いひゃいいひゃいほーひょふふぁふふぁい」
あ、出た。久しぶりのぱっつん子先輩の金髪子先輩つねり。
「うーん……何がいいかなぁ」
ロリ先生、わりとマイペース。
そして思う。
これ、クリアしないと開放されない件だよなぁ。
さくっと終わらせておしまいにしたいなー。
「ウチ」
「え?」
「え?」
「ウチ?」
「?」
「もう、ウチでいい……わよ、ウチで」
「おぉっ!」
「ミリィ被り?」
「ウチと被ってるっ!?」
「んー、でも、いいんじゃない?」
どれにしても被るだろうし。
一番、男でもアリな一人称だし?
「と、言う訳で、ウチ、もう、家帰ってよい?」
渾身の、ボケを一発。
「ダメに決まってるでしょ」
決まらず!
トホホ。