第296話:寝ましょう、一緒に
多少、強引にでも。
この場をお開きに、して。
寝よう、寝ましょう、寝たいです。
そう、思って。
「ってことで、そろそろ寝ましょう」
って、言ったらば。
「そうだね、そろそろ寝るかー」
よかった。
金髪子先輩も、乗ってくれた。
「そうだね、寝ましょうか」
おさげ子先輩も、同調してくれて。
「では、皆で一緒に寝るとしますかしら、ね」
さすがに、ぱっつん子先輩も反対は、せず。
「じゃあ、シズ、貴女も明日運転してもらわないとだから、ゆっくり休んで、ね?」
まだ携帯の画面にクギ付けになっているシズさんに、金髪子先輩がひと声。
「ほら、シズ」
ふた声。
「早めに寝なさいよね」
み声?
シズさん、反応無し?
「んじゃ、まぁ、寝るかー」
「っと、その前に、お手洗いお手洗い」
「あ、わたくしも」
結局、全員。
お手洗い、順番待ちの間。
「そう言えば、先輩たち、どうして戻って来られたんです?」
そう、一旦は部屋に戻って、眠ったと思ったのに、わりと、すぐに。
「あぁ、そうだった。ノド乾いたから飲み物、取りに来たんだった」
なるほど。
なので、各自お手洗いのあと、冷蔵庫からペットボトルのお茶やお水をピックアップ。
ボクもお水もらって行こうっと。
「んじゃ、お部屋へゴー、って言うか、シズも早く寝なよ? シズ? シズ!」
シズさん?
「あ、は、はい、お嬢様、おやすみなさいまし」
ようやっと、顔をあげて、立ち上がって、お辞儀。
こうやって見ると、清楚で礼儀正しい方なんですけどね。
何やら、ちらほら、見え隠れする、正体と言うか、本音? 本性? 裏の顔?
そんなシズさんを、リビングに残して。
「おやすみ~」
「おやすみなさい」
言いながら、階段をのぼって二階の部屋へ。
四人、ぞろぞろ。
「それでは、おやすみなさい」
ボクの部屋の方が手前にあるので、扉の前で先輩方におやすみの、ご挨拶。
「何言ってんの、寝るんでしょ、一緒に」
「寝たいんでしょ? こっちよ」
「ほら、ご一緒に寝ましょう」
え?
「いやいや、マズいでしょ、一緒は」
冗談だとは、思うけど。
いや、夏合宿の時は、結果的にって流れもあったけど。
ぱっつん子先輩、手首つかんで引っ張るの、やめて……。
「寝るなら一緒じゃないとー」
「ええ、離れていては寝れないし、ね」
はぃ?
何をおっしゃって……あ。
あぁあああああああ。
そういう事ぉおおお!?
「違います違います、寝るんじゃなくて、眠るんです。眠りたいんですっ!」
また少し強引ながら。
力を込めて、ぱっつん子先輩の手を振りほどいて。
「ちっ、気付きやがったか」
「あはは、日本語っておもしろいね」
「日本語と言うか、ある種の隠語? ですかしら?」
寝る。
睡眠を表す言葉も内包しているとは、言え。
寝そべる、とか、寝転ぶ、とか、あるように。
睡眠とは異なる状態を示す事も、あり。
先輩たちが使ったのは。
ソッチの意味かよぉおおおおおっ!
まったく。
「はいはい、そういう事なんで、おやすみなさい。ゆっくり眠らせていただきますっ!」
そう言いながら、部屋の扉を開けて、さっと中へ。
扉を閉める前に。
「先輩方も、ゆっくり眠って下さいねっ」
付け加えて、扉も締めて、鍵も掛けて。
ふぅ。
『おやすみー真綾、ゆっくり眠れー』
『真綾くん、おやすみねー』
『おやすみなさいませ、真綾さん』
扉の外から、返礼も聞こえますが。
このテンションで、果たして、先輩方、三人で。
本当にすぐに眠れるものなんだろうか?
そんな心配も、ありつつ。
シズさんも、ちょっと、心配?
明日、ちゃんと、おうちに帰れるんだろうか?
若干の、不安もありつつも。
「さすがに疲れた……」
ばたんきゅー、なのです。