第291話:男でもなく女でもない真綾に荒療治を
シズさんと、ふたり、別荘の、リビング。
マンツーマンで、お説教なのか、ご高説なのか、ご指導なのか。
シズさんと、しては。
奉公先の金髪子お嬢様と、その幼馴染のお嬢様たちが。
あたしに危害を加えられないか? って、心配をしていらっしゃる模様。
それは、あたしから、と、言う可能性と。
もうひとつ。
先輩たちから、あたしへ、と、言う、可能性。
シズさんが言おうとしていたのは、後者の危険性について。
だと、思う。
多分。
そして、おそらく、それは。
先輩たちのみならず。
シズさん自身も?
今、まさに。
シズさんが、あたしを軽く抱きしめて、耳元でその事をささやこうとした、その時。
「シズ、まぁや、なにやってんの?」
リビングに、金髪子先輩が、再登場。
見れば、金髪子先輩だけでなく、ぱっつん子先輩、おさげ子先輩も。
シズさんが、さっと、あたしから離れて、先輩たちの方へ向き直り。
「お嬢様、どうされました?」
「いやいや、どうされましたはそっちでしょ。ふたりで何やってたの?」
何、と、申されましても。
えーっ、と、ですね。
どうやって、ごまかそう?
ちらっ、と、シズさんの方を、見やって。
目で合図。
「真綾様がお嬢様方にペタペタされたのに、お嬢様方をペタペタする事ができなかったので、代わりにわたくしにペタペタしていただこうかと」
って、シズさん!?
ごまかすどころか、そのまんまですやーん。
それより、シズさんが『ペタペタ』言うの、なんかカワイイなっ!?
「何それ、それでペタペタしてたの?」
確かに、金髪子先輩のおっしゃる通り。
話の流れだと、ペタペタしてたようにも、聞こえますよね。
「いえ、そうご提案申し上げたのですが、いやはや、真綾様ときたら」
「あー、わかる」
「でしょうね」
「さもありなん」
ぅう。
そういう風に、思われてる、見られてる。
でも、それは、間違いではなく、正しい、見解とも、言える。
自覚も、ある。
「はい。男性として、軽々しくは女性に触れられないと、頑なな意志をお持ちのようですわ」
ヘタレ、と、言われてもおかしくはない、けれど。
言わないのは、シズさんの、優しさ、かな。
「さりとて、女性同士のフレンドリーなスキンシップができるかと言うと、そうでもなく」
はい、おっしゃる通り。
女の子になりきってるのなら、女の子と、もっと気軽に触れ合えるんだろうなぁ、とは、思います、けど。
さすがに、そうは行かない部分も、多々。
シズさんの解説に、先輩たちは。
「あー、男としては、ヘタレ」
「うん、ヘタレ」
「ヘタレですわね」
ずばり、おっしゃいますか……。
さらに、シズさんまで。
「はい、ヘタレ、ですね」
言ってもいいとは思ったけど。
実際、ずばり言われると。
なんか、悲しい?
しょぼん、と、していたらば。
「そこで、ですね」
改めて、シズさんが。
「多少の荒療治も必要になるかと思われる次第で」
荒療治?
「荒療治、って?」
ほら、金髪子先輩もキョトンとしてるじゃないですか、シズさん。
いや、なんとなく、その治療法の全容が、わかっちゃう部分もありますがー!?
「ふむふむ、もっと強制的にペタペタして、慣れさせるって感じかな?」
おさげ子先輩が、解にたどり着く。
「はい、でも、お嬢様方には、荷が重いと思われますので、ここは、このシズが」
堂々と、認めちゃったよ、シズさん。
でも。
「シズさんが、となると、条例違反、犯罪になりませんかしら?」
ぱっつん子先輩の、起死回生の、フォロー。
「あ」
固まる、シズさん。
そう、成人が、未成年に、って、ヤツですよね。
「ウチらがヤる分には問題ないってこと?」
おぉい、金髪子先輩っ!?
「一応、そうなりますかしら? 詳しいコトはわかりませんが」
ぱっつん子先輩、知らんのかーい。
って。
心の中で、突っ込みまくり。
リアルで突っ込むと、何が返って来るかわからないので、静観。
「ふむ……ちょっと調べてみましょうか。端末取ってくるわ」
そう言って、おさげ子先輩が、リビングを出ようとするけど。
「あ、ツグミん、ウチのも持ってきてー」
「わたくしのもお願いしますわ」
って。
そうだ。
この機に乗じて。
「じゃあ、あたしは、これで」
さっさと、逃げよう。
逃げるが、勝ち。
と、思いましたが。
「真綾はココ」
金髪子先輩に、ソファまで引っ張られて。
着席。
とほほ……。