第289話:お嬢様方の代わりに
先輩たちに、ぺたぺた、さわさわ、すりすり、ぷにぷにと。
いろいろ、されて。
事故的に、ぱっつん子先輩の『おでこアタック』を受けて。
いろいろヤバい状態を、察してくれたのか、シズさんが。
先輩たちを部屋へと追いやって。
リビングに、シズさんと、ふたり。
その、シズさんが。
すっと。
あたしの前に立って、深々と、お辞儀をして。
「真綾様、お嬢様方が大変ご無礼を……申し訳ございませんでした」
「あ、いや、シズさんが謝るような事じゃないです、顔あげてください」
でも、シズさんはそのまま、続けて。
「少しくらいならと見守っておりましたが不慮の事故とは言え、その……」
事故。
ぱっつん子先輩の、手が滑って、額が……、って。
「ええ、事故ですし、仕方ないですから。それにシズさんがすぐに助けてくれましたし」
上体を曲げ、頭を低くしているシズさんの。
その肩にそっと触れて。
「ありがとうございます、シズさん」
そう言うと、シズさんもやっと、上体を戻して、顔をあげてくれて。
「はい、ありがとうございます、真綾様それで……」
?
何か、少し言いにくそうに、でも、シズさんは続けて。
「お嬢様方が真綾様に触れる事はできましたが、真綾様がお嬢様方に触れるまではできていませんでしたよね」
はぁ、まぁ、それは。
「そ、そうですね」
もともとの、先輩たちの話によれば、って、事ではありますが。
「それで、そのですね……わたくしが、その、お嬢様方のような若さはございませんが、一応、その、女、ですし……お嬢様方に代わって、ですね……」
はい?
何をおっしゃっておられるのかな?
シズさん?
白い割烹着を、脱ぐと、とてもシンプルなねずみ色の、着物姿。
えっと。
さらに、腰と言うか、お腹あたりの、帯と言うか、紐に手をかけて……。
「ちょ、ちょーっと、待ってまってシズさんストップストップぅうううううっ」
さすがに。
叫びつつ、シズさんの手首をつかんで。
その動作を、強制停止。
てか。
何しようとしてるんっすか、シズさん。
「何しようとしてるんっすか、シズさん!?」
さすがにさすがに。
「ですから、真綾様にオン……」
「わーわーわー、わーわー、ダメダメダメですー」
シズさんの意図を、汲んで。
いや、理解はしたけど、汲まん。
汲んだらあかんやつや、これ。
うぇええええい。
先輩たちより、さらに生々しいと言うか。
生々しすぎる。
こ、これが。
オトナのオンナの。
魔性?
ひぃい。
怖っ。
「真綾様……」
がしっ!
逆に。
シズさんに、正面から両手で肩を、掴まれて。
シズさんの方が、背が高いので、上から覗き込まれるような形で。
「そういうところ、ですよ。女性にも男性にも、ひとに優しい、優しすぎるのも善し悪しなのです。ぐいぐい行くところは行かないと、どこにもたどり着けなくなってしまいますわよ」
って。
何を諭されているのか、な?
えーっと。
「それとも、こんなおばあちゃんでは、やはり、ダメ、ですか?」
今度は。
なんか、ちょっと悲しそうな表情で。
いや、シズさんは、ぜんぜん、そんな。
おばあちゃんだなんて。
って、思ってたら。
「真綾様」
「ひゃぁ」
シズさんに、ぎゅっと。
抱き締められて。
耳元で。
「真綾さま……」
ひゃ。
「ひゃい……」