第285話:先輩方のタクラミ
バーベキューが終わり、お風呂に入って少しくつろいで。
デザートの、スイーツ。
おいしいケーキを、ぱくもぐしながら。
シズさんが煎れてくれた、紅茶も飲んで。
ケーキもおいしいけど、この紅茶も、すごく美味しいな。
っと。
それは、ともかく。
「で、何を企んでらっしゃるのかな?」
ロウテーブルを挟んで、向かいに三先輩。
大、小、中、と、並ばれてますが。
そのまんなかの、小先輩が。
「タクラム言うなや」
「男物の着替えやら用意して、最初から完全に狙ってますよね?」
これを企みと言わず、何と言うのか、と。
「さっきもちらっと言ったけど、八時間目の活動の延長、みたいなところかなー」
ひと足はやくケーキを食べ終えた金髪子先輩が、おっしゃるには。
「真綾のおかげもあって、真綾の友達とか、男子と会話できるくらいにはなったけどさー」
男子の友達を紹介して、色々遊んだりしたのは、効果があった、と。
「でもまだやっぱり、触れたり触れられたりするのは、ちょっと怖いんだよねー」
うんうん、と、おさげ子先輩と、ぱっつん子先輩も、同意。
なるほど。
稀に、あたしと手を繋いだりすることもあるけど、それ以外だと……。
「ミリ先輩、たまに抱き着いて来たりするじゃ……」
ないですか、と、言いかけて。
あたしの場合は、純粋な男と言えるかどうか微妙か、と、思い至る。
その通りに、金髪子先輩も。
「女子の格好してる真綾は特別と言うか特殊だからねーもうお触りもオッケー」
と、宣われております……。
「で、今日は男の子になってもらって、男子モードでお触りできるか、お試し、みたいな?」
おさげ子先輩が、金髪子先輩に、続く。
やっぱり、イヤな予感は、的中。
この状態で、ペタペタ、触られるのかな……。
と、思ったら。
ぱっつん子先輩が、さらに続けて。
「もうひとつ、真綾さん、あなたのためでもありますのよ」
「あたしのため?」
はて?
さらに、金髪子先輩に戻って。
「真綾、あんた女子が苦手でしょ?」
え?
と、言うか、フォークの先端をこっちに向けないでくださいな。
お行儀、悪いですよ、金髪子先輩……。
「あんたの方からウチらとか、女の子には絶対に触れたりしないもんね」
そりゃ。
「そんな事したら、セクハラとか下手したら痴漢とかって訴えられちゃうじゃないですか」
何を、いまさら。
「同意も無しにいきなりペタペタしたらそうなるけどさー」
いや、同意とかどうやって取るんですか。
『今からさわらせてもらっていいですかっ!』
『はい、どうぞっ』
『ぺたぺた』
ありえねー。
「女の子の方が、さわっていいよーって言っても、さわれないんじゃない?」
「それは……」
どうだろう?
どういうシチュエーションか。
手を繋ぐ、とかではなくて、ハグしたり、手じゃない、身体のどこかに、触れる……。
唯一、球技大会で、事故みたいに、一瞬だけ、抱き着かれた事は、あったけど。
こっちから行ったわけでもないしなぁ。
それに、プロテクターとか着けてたから、直接的に触れたのは、手とか頬くらいだったかな。
と、言うか。
思い出したら、また恥ずかしくなって、顔が赤くなるじゃないですか。
それより。
自分が、女の子に直接さわるイメージが、わかない。
どういう状況で、触れる必要性が、生じるのか?
「今日ほら、アカネさんから雪人さんの話、聞いたのよね」
あ。
そういえば。
女子たちが、アカネさんを囲んでたっけ。
「アカネさんの苦労話聞いたらさぁ、真綾も雪人さんと同じっぽいかなぁ、って」
どういう事か、と、疑問は。
今日、聞いた話を思い出して、ちょっと納得してしまう。
雪枝さんの。
『超奥手の雪人を~、オオカミさんにするのぉ、すっごく、大変だったの~』
アカネさんの。
『雪人くんみたいな恥ずかしがり屋さんだと、アッチ方面で苦労するかもですよ』
「だから、ウチらが男に触れる練習と、真綾が女に触れる練習、ね、これならWIN-WINじゃない?」
WIN-WIN。
ウィン-ウィン、と言うよりは。
ウェーン、ウェーン、に、なりそうな……。
ホントに、やるの?