表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/349

第276話:母さんの決断



 さぁっと。


 春の風が、吹き抜けて。


 舞う、桜の花びら。


 風が鳴らす、樹の葉の、音以外。


 音の無くなった、庭で。


 ごくり。


 母さんの表情が、驚きから、苦渋へと変化し、さらに。


 少し、引きつったような、真顔へと。


 そして。


 意を決したかのように。


 ざっ、ざっ。


 一歩、二歩。


 進み出て。


九重(ここのえ)さん……皆さん、顔をあげて下さい」


 最初は、ぽつりと。


 最後は、はっきりと。


 土下座した四人の女性が、顔だけをあげたのを確認して、母さんは。


「え?」


 え?


 今度は、あたしが。


 そして、その場の皆が。


 驚く番。


 母さんは、すっと。


 その場にしゃがみこんで。


 正座をして。


「こちらこそ、失礼を申し上げ、また、お騒がせして大変、申し訳ございませんでした」


 土下座返し!?


 また、しばしの、静寂。


 母さんに土下座をされた側の、四人の女性、それにホンダさんも。


 反応に困っている様子。


 母さんが、ゆっくりと顔を上げ。


 迷彩服の白髪のおばあさんの方を向いて。


「お兄さん……本多さんを降ろしてあげてもらえますか?」


「あ、あ、あぁ、おい」


 おばあさんは、母さんの真剣な声に押されて、後ろに立つ迷彩服の男たちに指示を出す。


 すぐに、迷彩服の男たちが動いて。


 ホンダさんは、つるし上げから、解放され、地面に降ろされる。


 母さんは、所在無げに立ち尽くす本多さんに向かって、改めて土下座をして。


「本多さん……大変申し訳ありませんが、先般のわたくしの申し出、取り下げさせて頂きます……どうか、こちらの方と、お幸せに」


 あ……。


 何が?


 どうして?


 どういう、理由で。


 母さんが?


 つい、ユイナおねえちゃんと顔を見合わせると。


 おねえちゃんも、何が何やらと言った表情。


 しばらく、頭を地面につけていた母さんが、ゆっくりと顔をあげて。


 立ち上がって。


 スカートの膝あたりに着いた泥を手の甲で軽くはらった後。


「りょうこさん、お立ち下さい。これで、終わりにしましょう」


 そう言いながら、迷彩服の白髪のおばあさんに手を差し伸べ。


「あ、ああ……」


 おばあさんも、差し出された母さんの手を取って。


 すっと、立ち上がり。


 母さんは、隣に移動して。


「蘭さん……」


 ()の女性にも、手を差し伸べて。


「いろいろと、ごめんなさい」


 それを見ていたユイナおねえちゃんが、方菜(かたな)さんの、前に出て、手を伸ばす。


 あたしも。


 河崎さんの前へ移動して、手を伸ばして。


 三人の女性に手を貸して、立たせる。


 手を繋いだまま。


 ()の女性……蘭さんは。


「どうして、急に……?」


 さすがに、それは、蘭さんのみならず。


 あたしも含めて、ここに居る皆の、疑問。


「……わたしは……九重(ここのえ)の……」


 母さん……。


 言い淀んで、でも、何か話そうとする、母さんを。


 遮るように。


「さーさー、一区切りついたみたいだし、どんどん食べよう食べよう。食材はまだまだたっくさんあるから、そこの迷彩服のひとたちも食べて食べてー」


 この場の主でもある、金髪子先輩の言葉に。


 でも。


 迷彩服の白髪のおばあさんは。


「いや、すまんけど、ウチらはこれでお(いとま)させてもらいますわ」


「え、そう?」


「はい、お騒がせしましたよって、ほんま申し訳あらしまへんでした」


 そう言って、さらに。


「ほら、あんたらも、帰るで」


 ホンダさんたちへ、告げる。


 ホンダさんたちも、その言葉を受けて。


「あ、ああ……」


 仕方が無いと言えば、仕方が無い、か……。


「園ちゃ……園田さん、ごめんね」


「いえ、こちらこそ……」


 ホンダさんと、母さんが、ひとこと、交わしたけれど。


 ホンダさんたちは、着替えるために、一度別荘の、中へ。


 おばあさんは、トラックの中へと、戻って。


「それじゃあ、こっちは続き、続きー」


 金髪子先輩の、音頭で。


 皆も。


「食べましょう食べましょう」

「飲み物もまだまだあるよ」

「おっと、炭追加しなきゃな、ケンゴ、森本、そっちのコンロ頼む」

「あいよ」

「了解」

「材料も追加しないと」

「パパぁ、おにくー」

「はいはいちょっと待ってね」


 ぱたぱたと。


 動き始める、時間。


 何事も無かったかのように。


 いや。


 何事も、無かった事にしたい、かのように。


 改めまして。


 お花見バーベキュー大会




 母さんには、後で、ゆっくり、色々、聞かせてもらおう。


 話してくれれば、だけど。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ