第274話:姉を諭す妹と姉の意見に賛同する妹
ひょんな事から、母さんにヘッドロックを喰らっていた時。
エリ先生のご登場に、より。
「た、助かった……」
何気に、力、強いですね、おかあさま……。
これまで、暴力的なシツケとか、されたこと無かったから、知らなかったけど。
母は、強し?
もともと、強かったのか。
母になって、強くなったのか。
後者のような、気はする。
「はいこれ、飲み物と、少し食べ物も持ってきたましたよ」
ソファの前のロゥテーブルに置かれる、お盆。
各自の名前の入ったカップと、お茶のペットボトル、それにお野菜お肉。
あ、エビとイカもある。
「あ、エリ、ありがと。あっちの様子はどう?」
テーブルにお盆を置いたエリ先生に、ユイナおねえちゃんが、訊ねる。
「あぁ、向こうはシズさんが面倒見てくれてるから」
「外の方は?」
「雪枝さんが仕切ってホンダさんから色々聞きだしてるところ」
「なるほど。あとで教えてよね」
「うん、わかった、じゃあとで」
エリ先生が、ぱたぱた、と、部屋を後にすると。
ユイナおねえちゃんが。
「あとで教えて、とは言ったものの」
「この状態で、ここに三人で居るだけって言うのも、気まずいわよね」
「うん真綾、その通りだよ」
母さんは、自分が原因だとわかっているのもあって。
少し力なく、うなづいて。
「とりあえず、食べながら考えよう」
うんうん。
これは、母さんも、力強く、うなづいて。
改めまして、いただきます。
特に、母さんは、あの金髪の人と話し込んでて、あんまり食べてない、かな。
「ほら、母さんの好きなエビ、食べなよ」
「ありがと、でも、真綾も好きでしょ?」
「もう一個あるし、下に行けばもっとあるだろうし」
ね。
ぽりぽりと、そのエビの皮を、剥き剥き。
ユイナおねえちゃんが、少しお肉をかじった後。
「向こうにしてみても、今日初めて会った沙綾姉さんに戸惑ってるだろうしなぁ」
そう言ってまた、次のお肉に、かぷり。
あたしも、そう思うし。
「こっちも、向こうの事、何も知らないしね」
あたしも、エビを、もぐもぐ。
「やっぱり、一度、じっくりと話し合った方がいいだろうねぇ」
それもあるけど。
エビ、うまうま、ごっくんしてから、あたしも、進言。
「結局はあのホンダさんってヒトの気持ち次第だよね」
そう、結局、母さんと、あの金ぱっつんの女性が、争ってみたところで。
その勝敗を決めるのは、と、思っていたら。
ユイナおねえちゃんが、また、突然。
「そう言えば、姉さん、まだあの人とはヤって無いんだよね?」
は?
「んほっ! けほっけほっ! ななな、急に何言い出すのよユイナっ!」
タマネギをかじっていた母さん、かわいそうに……。
はい、お茶。
「いやぁ、向こうはもうヤってんのかなぁ、って思った次第」
ノドに詰まりそうになったタマネギを、お茶で流し込んだ母さん。
「知らないわよ、知る訳ないでしょそんなことって言うか真綾が居るのにそんな話はやめて頂戴っ」
うん。
居心地、悪すぎ。
折に触れて、この話題を出してくるね、おねえちゃん。
「いやぁ、あたしのダンナ探しの話もしたけどさ、大事だよ、アッチの相性」
「それは……」
「そっちの相性もあるけど、さ、そもそも趣味も合ってないんじゃない?」
あー。
「あのひと、鳥の写真とか、バイクで頻繁に撮りに行ってるんでしょ?」
みたいですね。
河崎さんに見せてもらった写真とかも、本多さんと一緒に撮ったみたいだし。
「姉さん、鳥とか、写真とか、バイクとか、好き?」
ぷるぷると、首を、横に振る、母さん。
「本多さんに写真見せてもらって、キレイだなぁ、とか、可愛いとかは思うけど、自分で、って、言うのは、ちょっと……」
「でしょ? 今から一緒に一から始める、って手もあるだろうけど、毎週のように休日に、とか、想像してみてよ」
そう言われて、固まる母さん。
冷静に、考えてみれば、って事か。
本多さんが、あのお歳で、結婚していない理由。
そして、あの金ぱっつんの女性……蘭さんが。
本多さんといつも一緒に、バイクに乗って、鳥の写真を撮りに行ってる、って考えると。
なんとなく、わかったような。
気が、する。
と。
ドンドン、と。
部屋のドアが、少し乱暴気味に、ノックされる。
はて?