第271話:修羅場ですか?
春休み・お花見バーベキュー大会。
和やかな、その会場に。
似つかわしくない、大きな声で。
「あなたにそんな事を言われる筋合いはないわっ!」
母さん!?
「あなたこそ後から出てきて泥棒猫みたいな真似するんじゃねーですわっ!」
何事!?
河崎さんとふたり、声のした方を見やると。
母さんに、蘭さんが、掴みかかろうとしている!?
河崎さんと顔を見合わせたのも、一瞬。
あたしも、河崎さんも、一目散に。
母さんと、蘭さんのところへ駆けつける。
もちろん、本多さんも。
「ふたりとも、落ち着いて、落ち着いて」
本多さんは、ふたりの間に入って、母さんと蘭さんを止めようとする。
「蘭! 何やってんのよ! やめなさい! 方菜っ! 手伝ってっ!」
河崎さんが後ろから羽交い絞めにして。
「母さんっ!」
あたしも同じように、蘭さんにつかみかかろうとしている母さんを、引き止めながら。
「ねえさんっ!」
ユイナおねえちゃんを、呼ぶ。
方菜さんと、おねえちゃんが、すぐに反応してくれて。
「合点っ!」
「了解っ!」
察してくれたのか、それぞれ、蘭さんと母さんを羽交い絞めにして。
あたしは母さんの前へ。
「母さん、一体、何があったの」
後ろでは、河崎さんも同じように。
「蘭、どうしたの、貴女らしくない」
ユイナおねえちゃんを引きはがそうとしながら、母さんが。
「ユイナ、放して。真綾どきなさい。これはわたしとこの人の問題よ。手出ししないで」
母さん……。
こんな母さん、見た事、無い。
怖い。
こんな。
「方菜、お放しなさいっ! 永依夢そこをどきなさいっ!」
あぁ、河崎さんと方菜さんが、蘭さんを押さえきれなくなったら……。
そう思って、振り返って。
母さんをかばうように、両手を広げてみたら。
同じように、河崎さんが、こちらを向いて、両手を広げ。
同時に。
「蘭には手出しさせないわよ」
「母ちゃんには手を出させない」
何故か。
河崎さんと、にらみ合う形に。
そんなあたしの後ろから、母さんが。
「この人、姪なのに叔父の卓人さんに求婚したって言うのよ? あり得ないわ」
ほぇ?
「大叔父と大姪ですわ、だから結婚も可能なんですの。それよりあなたこそ子供も居るのにおじさまに求婚するなんて非常識ですわよ」
と、言うか。
それが、喧嘩の、原因?
喧嘩と言うか、これ。
えっと、何て言ったっけか。
「修羅場だ……」
ぼそっと、誰かが、つぶやく声が聞こえる。
それだ、それ、それです、修羅場。
あっちゃぁ……。
でも。
「卓人さんがお返事を渋っていたのは、この子のせいだったんですね……」
母さんの矛先が、本多さんへ。
「うぅっ……まぁ、そのぉ……」
渦中の、ご本人。
あぁ、この、優柔不断さが、って事かな?
そんなご本人を、差し置いて。
「蘭先輩は悪くないっ! ずっと前から、それこそ、子供のころから、ずっと、ずっと、カワサキさんの事、見てたんだから」
何故か、第三者の、河崎さんが、少し切れ気味に。
「後から来たあなたの方が引くべきだと思いますっ!」
え?
何故か、河崎さんが。
どうして?
と、思うより先に。
恋をする、乙女のように、オレに、求婚したことを、告白してくれた、あの、母ちゃんの、赤らんだ表情を、思い出して。
叫んでいた。
「後も先も関係ねーだろっ! オレの母ちゃんだってなっ!」