第270話:永依夢(えいむ)さんにあたしの事を
お花見バーベキューに集まった、大勢の方々。
咲き誇る、桜のもと。
美味しい、楽しい食事。
河崎さん、それにホンダさんたちの、野鳥の写真を見せてもらったりしてたんだけど。
河崎さんと、ふたり、みんなから少し引いたところで。
「園田さん、って、えと、その、男の子、なんだよね?」
今度は、河崎さんのお訊ね番。
「あ、はい、一応……」
来たかー、って感じも、無きにしも。
「どうして、女装を? って、訊いちゃっても、いい?」
「はい、大丈夫ですよ」
自宅前の元、女子校が共学化されて。
入学したのはよかったけど、って。
あたしが女の子の恰好をする事になった経緯を、簡単に。
「へぇ、東雲が共学化されたなんて、初めて聞いたわ」
「あんまり宣伝してませんからねぇ」
それから、八時間目の特別授業の、話。
「なるほど。LGBTQとか、学校で少し習ったけど、身近には無かったから、こんなにいらっしゃるなんて、驚きだわ」
雪人さん、アキラくん、川村ちゃん。
レイちゃんは、ちょっと違うかも、だけど。
「そう、なんでしょうか。あたしとか、あたしの周りが、ちょっと特殊、なのかなぁ」
「うん、いちにぃ、さんしぃ、四人? すごいわぁ」
「あー、五人、ですね。アキラくんも」
「あ、そっか、あのちっちゃい子も、男の子だったっけ……どう見ても女の子にしか見えないわ」
「あはは。あたしもだけど、姿はともかく、声が、どうしても、ね」
「そうね。声とか、ノドボトケとか、よぉく見たら、わかるんだけど。ぱっと見だと、男性だって気付けないわ」
嬉しいのか、悲しいのか?
「えっと、その……こんな事、訊いていいのかどうか……」
ん?
何か言いたそうで、戸惑うように。
「はい、何でしょう?」
「えっと、その、下着とかも、女性用、着けてるんですか?」
あー。
「はい、一応……」
そのあたりも、興味、持たれちゃいます、よねぇ、やっぱり。
「その、胸部の膨らみとかも、何か入れてたりする?」
「はい。雪人さんのお店で売ってるんですけど、上げ底、みたいな感じで、柔らかいスポンジみたいなの、入れてますよ」
「へぇええ。そっか、そういう専門のお店、なんだね」
「はい、下着とかも、雪人さんのお店で買えるんで、女性用のお店に行くことはもう無いですね」
「あぁ、それも訊きたかったの。下着、どこで買ってるのかな、って」
女性としては。
男性が、女性用の下着屋さんに、って。
本物の女性からすると、やっぱり、嫌なモノ、なんだろう、な。
「何度か、行った事はあったりするんですけど、やっぱり、男が行くのは、ちょっと。今は通販か、雪人さんのお店か、ですね」
「なるほど、そのあたりは気を使ってるのね」
「はい」
今さら、こういう話をするのって。
ちょっと、新鮮、かも?
なんて。
河崎さんと、仲良くお話していたらば。
「あなたにそんな事を言われる筋合いはないわっ!」
聞き慣れた、声。
でも、聞きなれない、口調の、声。
母さん!?
少し離れているけど、大声が、聞こえて。
「あなたこそ後から出てきて泥棒猫みたいな真似するんじゃねーですわっ!」
母さんに、相対する、もうひとりの、女性。
「蘭っ?!」
河崎さんも、その異変に、気付いたようで。
その、蘭さんが、母さんに……。