第265話:自己紹介大会④ショートカットで小柄なお姉さんのお名前
ホンダ・タクトさんの、大姪?
ユイナおねえちゃんが、そう言ってた気が、する。
姪より大きく離れた姪、ってことかな?
ホンダさんの、妹さんの、お孫さんの、鈴木蘭さん。
金髪は、金髪子先輩と、同じ。
前髪ぱっつんで、お嬢様言葉は、ぱっつん子先輩と、同じ?
そんな、鈴木蘭さんの、お名前。
ホンダ・タクトさんと同様、バイクの名前、だって。
あたしはそのバイクは知らなかったし。
おねえちゃん以外は、きょとんとしてたから。
多分、ほとんどの人は、知らないほど、古いバイクだよね。
ホンダさんの妹さんが、初めて乗ったって言ってたし。
相当。
そして。
ショートカットの、ボーイッシュな、関西弁の、お姉さんが。
「鈴木『方菜』言います、よろしゅう頼んます」
そう、自己紹介された瞬間に。
ユイナおねえちゃんが、また、噴き出した。
今度は何よ。
まさか、また、バイクの名前とか言わない……。
わよね?
「スズキ・カタナって、やっぱり、乗ってるバイクはあのカタナだよね!?」
おねえちゃんが、あたしの手を振り払って。
「せや、カタナはウチのバイクやけどウチは『かたな』や『カタナ』とちゃうで」
「あぁ、かたな、どんな字書くの?」
と、言いますか。
さすが、バイク好き同士、なのかな、これは。
「片方の菜っ葉で、方菜やで」
「ほぉ、ほぉ、方菜かー、よろしくねー、わたしはヤマハのYZF乗ってるよー」
「あぁ、見た見た、あのバイクなー、ヤマハて珍しいなー」
「そっかなー、バイクはやっぱりヤマハでしょ?」
「いやいや、スズキやでカタナやで」
「何言ってんだ、バイクはカワサキに決まってるだろ」
あぁあ。
ホンダさんまで巻き込んで。
「おじさま、それに方菜も。まだお話の途中ですわよ。後になさい」
遠回しに、ユイナおねえちゃんにも、ビシっと。
さすが、お嬢様、なのかな、蘭さん。
その脇。
最後の、おひとり。
方菜さんと同じくらいの背丈で。
お団子頭の、お姉さんが、そのやりとりを見て、苦笑されてますが。
お姉さんには、見えないなぁ、方菜さんもだけど、あたしたちと同じ、高校生でも通じそうな、若々しい、女性。
その女性を、方菜さんが。
「せやなー、もうひとり、おもろい名前、おるでー」
ぽん、と、背中を叩いて、一歩前へ。
「うぅ、この状況で名乗るの、恥ずかしいんだけどー」
「ええやんええやん、ばーんとぶちかましたり」
仲良さそうね、このお二人。
身長も同じくらいな事もあって。
あぁ、なんか。
漫才コンビ?
夏の合宿でちらっと見た、聞こえた会話も。
なんか、漫才っぽかった、っけ。
「えっと、わたしは、かわさきえいむって、言います。あぁ、バイクのカワサキじゃないですよ、かわさき、漢字で書くと、さんずいの河の方です」
河崎、かぁ。
えいむ、って、どんな字なんだろう。
と、思っていたら。
「えーっと、えいむは、永遠に依るところの夢で、永依夢です」
あぁ、説明、大変そうだけど、なるほど。
そして。
予想外のところから、声が、上がる。
「え? えいむ?」
「AIM?」
森本くんと、若林くん。
えいむ。
確かに、ちょっと変わった名前かも、だけど?
何故、森本くんと若林くんが?