第252話:ホンダさんのお名前に爆笑おねえちゃん
二日酔いで、会社を休んだ母さんだけど。
ホンダさんのお見舞い効果も、あり?
午後からは出勤、とのことで。
「かあさん、朝も食べてないし、ご飯、食べてく?」
「あ、うん。何かある?」
「朝の残りで悪いけど」
「うんうん、それでいいよ」
って、ことなので。
「おねえちゃんも、食べる?」
「おー、食べる食べるよろしく真綾」
「はーい」
どのみち、朝に準備して残してしまっていた、二人前。
温めなおす感じで、ちゃちゃっと。
作業をしていたらば。
後ろで。
おねえちゃんと、母さん。
「まぁ、悪い人ではなさそうだね。どっかの誰かと違って」
「でしょでしょ。とぉっても、いいひと、なのよー」
「惚れた弱みかーでもバイク興味ありそうだったなぁ乗ってるのかな?」
「あー、うん、会社にもバイクで通勤されてるよ」
「そう言えば、帽子にもカワサキのロゴマークが付いてたわね」
「そうそう、カワサキのバイクだったと思う」
「ホンダさんなのにカワサキなのかー」
あはは、確かに。
「あぁ、なんでも名前がバイクと同じで、若い頃にイジられたんだって、だから、ホンダのバイクが嫌いになった、って、言ってたわ」
「名前……、何てーの?」
「えっと……。タクトさん。本多卓人さんよ」
へぇ。
と、言うか、母さん。
想い人の、名前を呼ぶだけで、顔を赤らめるのは。
乙女すぎや、しませんか、ね?
そんな母さんを、よそに。
「ぶっ! うははははは。何それ、そのまんまじゃん! すごっ」
何故か、大笑いの、ユイナおねえちゃん。
何が、どう、そのまんま、なのか?
「そうなの?」
「うん。ホンダのスクーターでタクトってのがあるのよ」
うわぁ。
「確かにそのまんまだね。そういえば、おねえちゃんのバイクは?」
「わたしのは、ヤマハだよ」
え?
「ヤマハって、楽器とか音楽教室とかじゃなかったっけ?」
「あぁ、そっか、あんまり知られてないかなぁ。ヤマハ発動機って、音楽系とは別のグループ会社でバイクとかボートとか作ってるのよ。バイクで国産って言うと、ヤマハ、ホンダ、それに、スズキ、カワサキがあるんよ。海外だとハーレーにビーエム、ドカティとか色々あるよー。わたしは母さんの影響でヤマハになっちゃったけどねー」
「へぇ~」
へぇ、と、しか。
でも、まあ。
好きなものの事って、ついつい、語りたくなる、もの、よね。
そこは、わかる。
気が、する。
あたしも、ブラの事、聞かれたら、ついつい。
って、それはどうでもよくって。
「しっかし、ホンダのタクトさんかぁ。笑っちゃいけないけど、笑っちゃう名前だわ。って言うか、そりゃイジられもするわっはっは」
まだ大笑いしてるユイナおねえちゃんに。
「んもぉ、ユイナちゃん」
そりゃ、母さんも、プチ・お怒りモード。
そりゃ、想い人の事を、笑われたら、ねぇ。
ぷんぷん母さん。
ほっぺぷっくり。
なんか、可愛い。
「あぁ、でも、姉さんと結婚して、わたしの義理の兄になったら、母さんと三人でバイク談義とかできるかもなぁ。それはそれでアリだなぁ」
「ちょっと、ユイナ、まさかあなた……」
「あぁ、ナイナイ、それはナイ。さすがに歳がストライクゾーンどころか、大暴投ゾーンだわ」
「それはそれでいいけど……なんかムカつく」
なんて、母さんとおねえちゃんが盛り上がっていますが。
「はい、ご飯。できたよー」
まぁ、軽く温めなおしただけ、だけど、ね。
「ありがとう、真綾」
「さんきゅー、まぁや」
あたしは朝食べてからまだそんなに時間経ってないから。
後で別にお昼ご飯。
たまには外食でもしようかなー。
とか、考えながら。
ふたりの食事を見守っていたらば
「あ、そうだ、姉さん、出かける前に学校前で真綾とチューショット撮って欲しいんだけど。真綾も制服に着替えておいてねー」
あ。
そんな話も。
ありました、ね。
二日酔いで、忘れたかと思ったけど。
覚えてた、かっ。
ちっ。
「ん? 真綾、なんか言った?」
「なぁんにもー」