第251話:玄関先、パジャマのままでホンダさんと
お見舞いに来てくれた、ホンダさん。
ユイナおねえちゃんが、インターホン越しは失礼だろう、って、ほぼ、無理やりに。
母さんを、軒先へ。
母さんの、悪い性格? なのかな。
ユイナおねえちゃんに、流される、まま。
いや、ごめんなさい。
あたしも、ちょっと、背中を押した感、あるけど。
それはいいとして。
玄関の、扉をあけて。
直接の、ご対面。
あたしとユイナおねえちゃんも、母さんの少し後ろで、様子をうかがう。
「あ、園ちゃん、大事なくてよかった、顔色も悪くなさそうだね」
ホンダさん、母さんの顔を、見て。
ご安心?
「は、はい、朝から休んで、だいぶ良くなりました」
「うんうん、よかったよかった。じゃあ、ウチはこれで」
え。
まさかの、即、ご退場?
すぐに母さんから顔を逸らして。
でも、そこは、ユイナおねえちゃん。
「あの、せっかく来ていただいたんですし、少し中でお茶でも。」
母さんの後ろから、ひょっこり顔を出して。
「あ、妹さん、ですね、あのバイクの」
「ですです、それで、ご都合、いかがです?」
さすが。
学生とはいえ、それなりの、年齢。
ちょっと怪しいところもありつつも、大人の、対応。
「いやぁ、それが、まだ仕事中でして。次の納品もあって、そこに車を待たせてあるんで、そんなにのんびりもしとれんのですわ。すみませんねぇ」
との、ことらしく。
見れば、しの女の正門の、少し奥に。
見慣れない、白い車。
さらに。
「生徒手帳の納入でこっちに来たついでに、ちょっと寄らせてもらっただけなんで」
あぁ、そっか。
生徒手帳の印刷を、母さんの会社に発注してるって、言ってたっけ。
完成、したんだ。
お仕事中なら、仕方ない、よね。
母さんも。
「お忙しいところ、わざわざありがとうございます」
って、素直に、ホンダさんの言葉に従って。
「いえいえ。大事なくてよかったよかった。じゃあ、ウチはこれで」
「あ、ホンダさん」
そのまま離れようとする、ホンダさんを、母さんが引き止める。
「ん? 何、園ちゃん」
「えっと、体調も戻ったので、午後から出社しますね」
あら。
「あぁ、無理はしなくていいけど。うん、いけるなら、出てもらえたら助かる」
「はい。それじゃあ」
「了解。ウチはもう一件納品につきあってから戻るよ」
「はい、ちょうど同じくらいに会社に着くと思います」
「ほい、了解。じゃ、また後で、ね」
「はい、行ってらっしゃい。お気を付けて」
「ほいほーい」
と。
振り返りつつ、手を振りつつ、軒先から、遠ざかる、ホンダさん。
あ。
押しボタン信号……。
ちょっと、微妙な間。
信号待ちの間。
振り返って、また手を振ってくれてる。
母さんも、手を振り返して。
信号が変わったら。
お歳の割りには、軽快に。
とんとんとん、と、ダッシュ程ではないにせよ。
信号の横断歩道を渡って、しの女の正門前へ。
正門の中に止まっていた車の助手席へ乗り込んで。
ぶるるん、と。
車で、去って行かれる。
もうひとり、母さんの会社の人が、車で待機してたのか。
なら、そんなに。
時間、かけらんない、よね、確かに。
その車を、見送って。
見えなくなったところで。
母さんと、ユイナおねえちゃんと、あたし。
三人。
家の中へと、戻る。
戻るなり。
ユイナおねえちゃんが、うなる。
「うぅう、仕事中じゃ仕方ないかぁ。絶好のチャンスだと思ったんだけどなぁ」
そして、母さんも、うなる。
「うぅう、パジャマ姿、見られちゃったじゃないの……恥ずかしぃ」
あはは。
おねえちゃん作戦、ちょっと失敗?
失敗と言うか、不発、かな。