第236話:淡い色の下着の淡さってどのくらい?
七ちゃんと九ちゃん。
同じ私立中学で、同じトランスジェンダー女子となると。
ふたりは、おそらく、お友達同士。
仲の良さまではわからないけど。
多分、最低でも顔見知りでは、あるだろう。
って、面接を聞きながら、三人の資料を隅々まで見てみると。
どうやら、診断書をもらった病院も、同じみたい。
結構大きな病院の専門科。
ふむ。
一方、八っくん。
市立中学で、そもそもトランスジェンダーとしてカミングアウトせず、男子として過ごしていると言う。
が、故に、高校デビューでもないけど。
高校からは、トランス女子として、暮らせるように、と。
診断書は、小さな個人経営のメンタルクリニック。
こういっちゃ、アレだけど。
お嬢様学校としても名高い東雲女子としては。
七ちゃん九ちゃんは、申し分なさそうだけど。
八くんは……。
面接の、受け答えを見ていて、聞いていても。
七ちゃん九ちゃんは堂に入った、お嬢様だけど。
八っくんは、しどろもどろで、男の子風味が、抜け切れていない。
時々、『オレ』と言いかける事も、しばしば。
まぁ、普段から男子として暮らしているなら、致し方ないのかもしれないけど。
違和感は、拭えない。
「それでは、こちらからの質問は以上となります」
おっと。
教頭先生から、ひと通りの質問が、終わったみたい。
「何か聞いておきたいこと、特に、事前にお渡しした学校規則に関して、質問はありますか?」
あー。
あたしも入学前に貰った、プリントアウトされた校則。
生徒手帳にも載ってるけど、字が細かくて読みにくいんだよね。
「七種さんと九重さんは問題ないと思いますが、八木さんは……その着衣の方は大丈夫かしら? 制服はスカートとスラックスを選べるけど、その、下着とか……」
すっ、と手をあげたのは。
八っくん。
では、無く。
九ちゃん。
九重ゆうちゃん。
当の八っくんは、少しキョトンとしている。
「はい、九重さん、どうぞ」
教頭先生が、挙手した九ちゃんを、ご指名。
「はい、その下着に関する校則の指定なのですが、少し疑問がございます」
九ちゃんは臆せず、流れるようにそう言うと、いったん、言葉を区切る。
「どうぞ、続けて」
教頭先生は、続きを促す。
「はい、ありがとうございます。下着の色についてなのですが、『白または淡い色の』とありますが、『淡い色』のその彩度について値の定義はあるのでしょうか?」
今度は。
一同、キョトン。
「色の濃淡について、彩度で表されますが、その基準値について知っておきたいと考えております。また、入学できましたあかつきには、校則にもその定義を明確に書した方がよろしいかと考えます」
なおさら、キョトン。
(出た、ユウの色ボケ)
ん?
小さな声だけど、聞こえてしまった。
これは、七ちゃん。七種カオルちゃん。
やっぱり、お友達で。
人となりも、知ってるんだろうな。
「先ほども申しましたが、父が色彩関連の教職をしている関係で、色に関する事柄にすごく興味があるので」
なるほど。そう言えば、『将来の希望』のところで、そんな話をしてたっけか。
「必要でしたら、色を測定する『色彩色差計』を導入して『L*a*b値』の観測値レベルの定義なども検討の余地がございます」
いや、おい。
「あ、『色彩色差計』と申しますのは……」
ちょっと。
「九重さん、ストップ、ストップ」
あ。
さすがに、教頭先生が、止めた。
「わかりました。下着の色については、『常識的な範囲で』と、なります。その定義については、そうですね……九重さんが合格して、この学校に通う事になった時に、また議論できると良いですね」
「はい、ありがとうございます。わたくしも『常識的な範囲』を定義できるか、検討してみたいと思います」
おぉ。
なんか。
中学生とは、思えない、大人な会話。
知らない単語とか、いっぱい出て来たわよ?
すごー。
おぉっと。コロナにかかって、ちょいと寝込んでた時期があったため、カクヨム版と話数の差が縮まってしまったじぇぇ。あんまりさぼると、どこかで追いついちゃいそう……w