第235話:七・八・九、入学希望の受験生の自己紹介
教頭先生の司会で、はじまった、面接。
教頭先生たちの斜め後方に、あたしたち。
三人の先輩と、エリ先生。
その、堂々たる教師陣、先輩陣を前に。
三名の、受験生。
現、中学三年生の、子たち。
東雲女子高等学校へと入学を希望する。
トランスジェンダー女子。
男の身体を持った、乙女たち。
おのおの、今、通う中学の、制服姿、にて。
「それでは、簡単に自己紹介をお願いします」
あらかじめ。
受験生たちにも、段取りは説明されていたのだろうか。
指名された訳でもないのに。
こちらから見て、いちばん左手の、セーラー服の、子が。
「はい」
すく、っと、立ち上がり。
「七種かおる、私立、東陽山中学校卒業見込み。よろしくお願いいたします」
背筋も伸ばして、綺麗な直立から、かくん、と、おじぎして。
また、すっと、着席。
続いて。
真ん中の席の、詰襟で、どこからどう見ても男子な、子。
「八木さとる、市立三谷南中学卒業見込み。よろしくお願いいたします」
そして、最後、もうひとり、セーラー服の。
「私立、東陽山中学校卒業見込み。九重ゆう、です。よろしくお願いいたします」
ちょこっと、バリエーションを変えてきた?
「はい、ありがとう。それでは、まずはじめに……」
教頭先生の司会で、面接が、続く。
あたしは、手元に配布された三人の資料にもう一度目を通す。
大中小先輩も、たいがいだけど。
なにこれ、七・八・九て。
揃いも揃ったり?
で。
七種って書いて、サイクサって、ちょっと珍しい名前かな。
カオルちゃん、と言うか、七ちゃん?
おさげにしているロングヘア―は、ぱっと見た感じウィッグじゃなくて、地毛、だよねぇ、あれは。
九重で、ココノエも、たいがい難しい名前かなぁ。
ゆうちゃんと言うか、九ちゃん?
九ちゃんもロングヘアを後ろでひとつに束ねてる。
出身中学を見ると、七ちゃんと九ちゃんは、知り合いか、もしかしたら、お友達、かも。
八木さとる、くん。
詰襟なこともあって、どこからどう見ても、男子。
髪型も、男子の、それ。
とりあえず、八っくんと呼んでおこう。
教頭先生は、最初に、『本校の志望動機は?』と。
もちろん、玄関ダッシュ五秒だから、なんて理由では、無く。
三人とも、もちろん、トランスジェンダーの募集があったこと。
それ以前から、しの女の制服にもあこがれがあった、とか。
学力的にも、進学にも有利だとか。
当たり障り無いと言えば、当たり障りの、無い回答。
その後も。
入学後にやりたいこと、入りたい部活、などなど、入学後の、希望、とか。
今の中学校生活のこと、とか、得意な教科は、とか、とか。
七ちゃんと九ちゃんは、私立の中学で、トランスジェンダーへの対応もできている学校らしく。
特に不自由や、いじめ、セクハラなんかも感じていないらしい。
ふたりとも、文系の教科が得意な、インドアな感じ?
八っくんは。
市立の中学って事もあって。
「学校ではずっと男子として、男子のフリをして過ごしていました」
って、事らしく。
精神の女子を、押し込めて。
男子として、振る舞っていたそうな。
だから、制服も、男子の、詰襟しか無いのね。
ある意味、可愛そう、とも、思える。
そりゃ、高校では、って、考える、よねぇ。
その割に、運動部、サッカー部にも入ってるとか、意外とアクティブ?
んー。
話を聞いてる感じ。
三人とも、特に大きな違和感は、無い、けど。
なんだろう、この、引っかかる感じ、感触、は。
はて?