第156話:まさか本当に六者面談
エリ先生と母さんは、まあ良い、と、して。
応接室で、仰々しくも。
校長先生、教頭先生、担任の先生を交えての、ある種の面談っぽいなぁ、と思っていたらば。
まさかの、校長先生から。
「ところで、園田さん……真綾さんは、卒業後の進路について何か考えはありますか?」
そんな、問いかけ。
本気で面談やーん!?
担任の先生と顔を見合わせる。
担任の先生とも、まだそんな話は全然、していないし。
母さんとも、顔を見合わせるけど、そんな話は特にしてないし。
「えっと、まだ具体的には何も……とりあえず、大学進学かなぁ、とは思ってはいますけど……」
どうしても歯切れは悪くならざるを、得ない。
「教員……学校の先生なんていかがですか? 将来、当校で教鞭を執るのは、いかがですか? もちろん、女装教師として」
はぃ?
「園田さんの成績なら、今の状態でも大丈夫そうですし、ね? 教育学部のある大学に推薦も可能ですよ?」
ちょ、校ぉ長ぉおおお。
「生徒としてトランスジェンダーを迎えるのと並行して、やはり同様に教師も必要と考えられますから……来期以降に向けて、探してはいますが……真綾さんなら、来歴もしっかりしていますし、ね?」
いやいや。
なんか、突っ走ってませんか、校長せんせー。
「それはなかなか、良い案ですね」
か、母さんまでー。
「でも」
母さんが、あたしの頭に、ポン、と、手を当てて。
「この子の希望、意志も尊重しないと、ですから。もう少しゆっくり考えさせてあげて下さいませ」
さすが、母さん。ありがと、母さん。
「ええ、もちろん。無理強いしたい訳ではありませんよ。ただ、ひとつの選択肢として、考えていただければ、ね?」
校長先生……。
さらに。
「三学期には進路希望調査もありますから、ある程度考えておいた方がいいわよ?」
担任の先生からも、要らない情報が。
でも。
そろそろ、考えていかないといけない、かなぁ。
将来。
何になりたい?
何を、したい?
いまひとつ、ピン、と、来てないところも、あり。
なんとなく。
大学へ行って。
どこかの会社に就職して。
それから?
あれぇ?
なんか。
その先が、なんにも、見えない?
あぁ、でも。
なんとなく。
こういう事がしたいなぁ、ってイメージも、無くは、ない。
先輩たちも、来年は三年生だし。
進路とか、決まってるのか、聞いてみたい、かも?
「それでは、お話は以上でよろしいですか? そろそろ、わたくしも時間が……」
あ。
母さん、この後また会社に戻るつもりなんだ。
「はい、ご足労いただき、ありがとうございました。今後とも是非、よろしくお願いします、ね?」
「ええ、もちろんですわ。卒業生としても、母校に貢献できるのは光栄ですもの」
「そう言ってもらえると嬉しいわ、沙綾さん」
「ありがとうございます、弓永せんせ。それでは、皆さま、失礼致します」
「はい、お疲れ様でした」
帰ろうとする母さんに、付き添う形で教頭先生が立ち上がるけど。
「あぁ、杉多せんせ、大丈夫ですよ、ひとりで帰れますから」
教頭先生を押し留める母さん。
「いえいえ、そういう訳には。さぁ、参りましょう」
うぅ、と言いながら。
応接室を後にする、母さんと教頭先生。
「それでは、我々も散会しましょう。お疲れ様でした」
お疲れ様でした!
いや、もう、ほんと。
いろいろ、疲れたわよー!