第115話:アルバイト、はじまりはじまり
三女子先輩と、女教師の、あられもない下品なチャットから離脱して。
あとからログを見たらえらいことになってたけど。
その話はまた後日、として。
さて、アルバイトの、日。
レイちゃん。
菅原レイちゃんこと、菅原礼人さんと、ふたり。
アルバイトで訪問する先は、雪人さんの女装専門ショップ『YUKITO』
では、なく。
その親会社である、少女向けのファッション製造販売会社の『YUKI』
雪人さんのお母さん、雪枝さんが経営する、会社。
今回のアルバイトは、雪人さんの会社から、雪枝さんの会社にモデルを派遣する形で、『YUKI』ブランドのカタログの写真を撮ることになってるみたい。
だから、雇い主、契約者は、雪人さんのところ。働く場所は、雪枝さんのところ、って事みたい。
そこへ向けて。
指定された最寄りの駅に集合。
「こんにちは、レイちゃん。気合入ってるね」
「真綾ちゃんこんにちは。えへへ、この服で撮影する訳じゃないけどね」
気持ちは、わからなくも、無い。
「そういう真綾ちゃんも、余所行き、だよね」
けらけら、と、笑う、レイちゃん。
いい感じで、リラックスしているのか。
それとも、カラ元気?
あたしもちょっと緊張してるけど、ね。
そこへ。
「やぁ、ふたりとも。お待たせ」
雪人さんも合流。
雪人さんも、見ようによっては、気合の入った女装。
でも、オトナって感じで、そつなく、自然な感じなのが、また素敵……。
「じゃあ、早速だけど、母さんの会社まで案内するね」
「はーい!」
レイちゃん、元気。
あたしも。
「はい、よろしくお願いします」
女装男子三名、徒歩でしばし。
オフィス街の、ビルへ。
馴染みのない場所だから、見るものが全て新鮮。
学生のあたしたちが、めったに踏み入る場所じゃないもんね。
ビルに入ったところで、雪人さんからカードを渡される。
首につり下げる透明なケースに入ったカード。
「これ、セキュリティカードね。これが無いと部屋の出入りができないから」
ほぇええ。
ますます、すごいな、大人社会……。
エレベータで、フロアを移動。
エレベータを降りると、廊下があって、いくつかのドアがある。
フロア全体がひとつの会社って訳ではなくて、いくつかの会社があるみたい。
その中のひとつの、入口。
「ここだよ」
ガラスの両扉の、片方は開放されていて、閉じられた方のガラスの扉に。
『Girls Fashion YUKI』
の、ロゴマーク。
扉の奥にテーブルがあって、『受付』って書かれた小さな看板。
雪人さんは、その脇にある電話の受話器を取って。
「あ、雪人です到着しました」
どこかへ、電話。
おそらく、会社の中に繋がっている内線、って感じ?
しばらく待つと、受付の右側の部屋から出て来た女性が。
「お待たせしました、では、ご案内しますね。こちらへどうぞ」
と、反対側、左側の廊下へ進む。
廊下の左右には、いくつかのドア。その先へ。
案内してくれた女性が、奥のドアにカードをかざしてから、ドアを開けて部屋の中へ。
「専務、お連れしました」
「おー、来た来た。ご苦労さん。入って入って」
部屋に招き入れられると。
髪の長い女性がひとり、座っていた椅子から立ち上がって、あたしたちを迎えてくれる。
その女性の、横。
マネキン?
じゃなくて、何て言うんだっけ……頭の無い、胴体だけの、マネキンみたいなの。
それが、ふたつ。
そのマネキンに着せられた、衣装。
え?
これ、着る、の……?