第112話:真綾ちゃんはアルバイトできない
「見て見て、真綾ちゃん、これ、雪人さんにもらっちゃった!」
なんと。
アルバイトをしてその給金で買おうと思っていた上げ底やら、ブラジャーを。
写真撮影に必要だってことで『支給』扱いに!
ぉおお。
さすがに、洋服の中なので、どんなのかは見えないけど。
その『盛り上がり』具合は、確かに、例のモノを内蔵してるのが明らか。
「よかったじゃない、レイちゃん。これで追加で可愛いブラもいっぱい買えるわよ」
「ええっと、ブラ限定?」
「んー、ショーツとかランジェリーとかも、いいかも?」
「そっか……アルバイト終わったら、一緒にランジェリー見に行こうよ」
「うんうん、いいね!」
とか。
レイちゃんと盛り上がっていたら。
「レイちゃんはともかくとして、真綾くんも……いや、もう、完全に真綾ちゃん、かな」
雪人さん、苦笑。
「まーやおねぇちゃん……」
アキラくんも、首を傾げて。
「いいわね、女子トーク! その勢いで、こっちのお洋服も、ぜひ!」
えっと、美里さん、だっけか。
あかねさんの、お母上。
「そうね~、アルバイトでもこっちの衣装、着てもらいますしね~」
こちらの、背の高い方のお母さまは、雪枝さん。
雪人さんの、お母上。
それはいいんだけど。
なんで、このお二人は。
ずっと、ふたりでくっついて腕を組んでらっしゃるのか??
「えっと、それでね、真綾ちゃんに相談があるんだけど」
はい?
「なんですか? 雪人さん」
「真綾ちゃんも一緒に、アルバイト……写真撮影、お願いできないかな?」
はいぃ?
「えっと、ごめんなさい。ウチの学校、アルバイト禁止なんで、ちょっと無理かなぁ……」
「うっ……アルバイト禁止なんだね……困ったなぁ……」
雪人さん、頭を抱えるけど、こればっかりは。
「えっとぉ~、東雲女子、だっけ~? 真綾ちゃんの学校ぉ~」
その雪人さんの、お母さま、雪枝さん。
「はい、東雲女子高校、です」
「ふむぅ……」
美里さんと腕を組んだまま、自分の腕を組む。
器用ね……。
「東雲女子って、お嬢様学校よね……そこに男子が女装して通学……なかなかエグい事になってるのね」
雪枝さんの腕にぶら下がるように、小柄な美里さん。
そんなに、エグいですかね……。
「男子は~、真綾ちゃん、ひとり、なのよね~?」
「はい。今年から共学化ってことで、男子も何人か受験したみたいなんですけど、合格して入学したのは、あたしだけみたいで」
「ふむふむぅ……来年は~、どうする、のかしら~」
さすがに、そこまでは、知らない。
と、言うか、考えた事もなかったけど。
大々的に共学化するなら、男子の募集も増やすだろうけど。
今年と同じ勢いなら、あまり宣伝せずに、男子もごく少数。
そうなって来ると、男子の制服の事とか、校則の事とか。
変化がある可能性も、無きにしも、あらず?
男子の後輩ができるのか?
女装男子の後輩ができるのか?
まさかの、男子募集ゼロで、本気で、あたしひとりっきりとかも。
「あり得る……」
あの学校の事だものぉおおおおおっ。
何をやらかすやら!?
「何がアリエルの~?」
雪枝さんの発音が、なんか微妙な気もするけど、そこは触れずに。
「えっと、来年、どうなるか全くわからないけど、いろいろと考えられるなぁ、って思って……」
「そっかぁ~……よぉし! 美里ぉ~、ちょっと計画立てるわよぉ~」
「へ? 何? 何の計画??」
突然振られた美里さんも、キョトン顔。
まわりのあたしたちも、キョトン。
「商売よ~、商売~。新しい商売のネタの匂いがするのぉ~。真綾ちゃんのアルバイトの件も含めて、わたしが何とかしてみるわぁ~!」
はい!?
「あ……母さん、なんかやらかす気だ……」
だ……大丈夫、なんだろうか??