第103話:ブラジャーっておいくら?
菅原さんに、あたしのブラジャーを強制装着。
直接はアレなんで、キャミの上からだけど。
「さて、じゃあ、そのまま服、着ましょうか」
「え? このまま?」
「うん、そのまま。服を着た状態も見てみましょう!」
はだけていたワンピースに腕を通して、背中のジッパーを上げて、襟元を整えて……。
「はい、背筋伸ばして、はい、ポーズ」
ぱしゃり、と、また写真。
さすがに、キッチンに鏡……姿見は無いからね。
写真を撮って、メッセージに添付して、お送り致します。
「ふゎゎゎゎ」
左手に持った携帯端末で、その写真を確認しつつ。
右手を、そっと、膨らみに添えて。
「うぅ、変な感じ……でも、やっぱり……」
うんうん。
今度は端末のカメラをインカメラにして、鏡替わりにして、あちこち角度を変えて確認してる。
「女の子らしさがかなりアップするね……」
鏡替わりに確認しつつ、時々、シャッター音。
自撮り。
したくなる、よね。わかる。
ブラジャーもだけど、中に入れている『上げ底』のおかげもあって。
洋服を盛り上げる、膨らみ。
これが、女の子っぽさ、女の子らしさの、源のひとつ。
「ね? そんなに大きくはないけど、あるとないとで、見た目も全然、違うでしょ?」
あたしも最初は全然、そんなつもりもなかったけど。
おさげ子先輩のご意見に。
エリ先生が、そういったパーツを売っているお店を検索してくれて。
より、女の子、らしく。
だから、だよね。
自撮りした写真を眺めて、うっとりしている感じの菅原さんに。
「ね。女の子を自称するなら、やっぱりこれくらいあった方がいいと思うんだけど」
「う……でも……お金が……」
うーん。
やっぱり、お金の問題があるよねぇ……。
ブラジャーも肌着だから、消耗品。
ショーツほどの摩耗は無いから、買い替えの期間は若干長めではあるものの。
可愛いデザインのとか、ついつい、欲しくなっちゃうこともあり。
この間みたいに、夏用の冷感素材! とか、衝動買いしちゃったしなぁ。
ある意味、沼?
「ちなみに、上げ底は、これだよ」
雪人さんのところのウェブサイトの商品ページのアドレスをメッセージで送る。
「んー……そんなに高くは無いんだね……ブラジャーって、いくら位するのかな?」
お。
興味、シンシン?
「えっと、あたしが買ったのはだいたい二千円から三千円くらい、かな?」
「うわぁ、やっぱり、高いねぇ……」
実は、値段だけで言うと、もっと安いものも、ある。
あるんだけど……。
これは、お母さんのウケウリ、なんだけど。
やっぱり、『安かろう、なんちゃろう』って感じで。
素材が悪くて、着け心地が悪かったり、壊れやすかったりして。
少し値段は高くても、それなりのメーカーの物の方が、結果的に満足できる、って。
そう考えると、あたしのところはお母さんの支援もあって、少し贅沢させてもらってるんだなぁ……。
「あ」
菅原さんが、小さく驚いたような声をあげる。
「ん? どうかした?」
「このお店、アルバイト募集してる……」
「へ?」
このお店。さっき送ったアドレスのお店。
つまり『女装専門ショップ・YUKITO』だよね。
トップページに飛んで、ささっとスクロールしてみると、下の方に、確かに。
『アルバイト急募!』の、文字。
内容はと言うと。
『商品カタログ用写真撮影モデル女装男子募集』
「これ……やってみよう、かな?」
菅原さん、やる気満々?
でも。
「菅原さんの学校、アルバイトOKなの?」
「うん。うちの高校、特に禁止はされてなかったはず」
で、あるならば。
ここは。
ひと肌、脱ぐとしますか?