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生き甲斐、殺し甲斐。  作者: 惛酩
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あっち側への誘い

「僕が、殺し屋になるんですか」

「そうだよ」


馬鹿な。突拍子もないことを言う人がいたものだ。

会っていきなり殺し屋に誘われる経験なんて、最初で最後だろう。いや、これ以降あってたまるか。


「小学生ですよ、僕」

「七歳だもんね?知ってる知ってる。ランドセルあるし」

「子供が殺し屋ですか」

「私も君とそんなに変わらない時に始めたけど」

「僕じゃなくてもいいんじゃないですか?」

「君ほどの適任はいないと見たんだけどな」


どうやら退く気はないらしいこの女。自信満々というか、自分中心というか。


「やる気はない?」

「やる気うんぬんの話じゃないです」

「じゃあ何に渋ってんよ」

「殺しと言う行為です」

「本当に聡いねぇ。君ぐらいの年齢ならなんにも考えずに生きられるだろうに」


んー、と悩みながら紅華(こうか)は大人二人の死体を漁っている。

見え方としては最悪だ。


というかこの人、なんでずっと目の前にいるんだ。

今の隙に警察に連絡してしまえばいいのだろうか。


「あ、今警察にーとか考えたね?」

「………別に」

「大人びてるけど所詮子供だね、君。分かりやすい」


揶揄うように笑っている紅華。


分かりやすいなんて初めて言われた。

今まで太一(たいち)は、なに考えてるか分からないと言われ続けてきたのに。


「まぁ、やる気ないなら無理強いはしないよ。けど断られちゃったら、私は君のこと殺すからね。それこそ警察に私のこと話されちゃ困るし。日本の警察優秀なんだよ?ああ、あんまり君生きることに執着してなさそうだから、別にいいのかな?」


笑っている。笑っているのに芯から冷えた声だ。

口角を不気味にあげている。


「…脅し、ですか」

「半分?」

「あと半分は」

「冗談かなあ」


どうする?と言いたげに見つめている紅華。

一瞬の沈黙を遮るようにインターホンが鳴る


「……?」

「お、来たね」


玄関を勢い良く開ける。とても深夜の行いではない。


「紅華さーん?遅くなーい?殺ったー?」

「一応」

「一応って…え!?居るじゃん?!餓鬼!?」


誰だろうか、見た感じ仲間か何かと太一は推測する。

会って早々餓鬼とは、無礼な大人だ。


「そー。スカウト中」

「スカウトぉ?」

「こいつ、ミリもビビんないの。これ見ても」


紅華がちょんちょんと死体を指す


「こらこら、あんま触んないの。君、いくつ?」

「……七歳」

「な、七歳…肝座ってんねえ」

「連れて帰っちゃダメ?」

「犬猫じゃないんだよ」

「どうせ殺すじゃん」

「でもさあ…」

美辰(みたつ)、とりあえず阿月(あつき)に連絡してよ。一応連れてこーよ。怪我だらけだよ、こいつ」

「はあ、ったく…」


そう言って、携帯を出して恐らく阿月さんとやらに連絡する美辰という男。


「今んとこアジトには連れてかない、けど病院行くよ。いいね?」


最初から拒否権はないじゃないか。


「車は?裏?」

「おう」

「了解。行こ、少年」


紅華は手を差し出す。太一はその手を振り払って入っていた押し入れから出る。


「あ、振られた。ははっ」


愉快そうに笑う紅華。それを呆れたように見ている美辰


考えてみれば、どうせ自分が居なくなっても変わらない。親は死んだ。下手すれば自分も殺される。


どうせ死ぬなら、最後の賭けだ。


太一は玄関を出る紅華に続いて出る。その後ろを美辰が付いてくる。その手にはランドセルが持たれている。


アパートの裏の空き地に黒光りの車が止まっている。

それに乗り込む三人。


運転席に美辰、後部座席に太一と紅華。

シートベルトをして走り出した頃、太一はふと気になったことを聞く。


「あの」

「なんだ?」


美辰が答える。紅華は外をじっと見ている。


「あの部屋にある死体はどうするんですか」

「ほったからしだよ。そこまで俺らは親切じゃない」

「でも、それだと誰も気づかないんじゃ?」

「それでいいんだ。腐敗させて特定不可にする。俺らの跡も時間が経てば経つだけ分からなくなるだろ?」


殺し屋とは惨いな。あのアパートなら最低でも一ヶ月は気付かれないだろう。


太一はちらりと紅華のほうを見る。

じっと外を見たままだ。なんというかさっきまでの爛漫さがない。


「あー、紅華さんね、仕事終わるとそれだから。ほっといていいよ。その人、狂人だからね。目の前に仕事相手(ターゲット)がいないと(もぬけ)の殻なわけ」


美辰が説明する。

狂人、か。ぴったりだなと太一は思う。

血を被って笑っていたんだ。普通であるわけがない。


(妙な人達に捕まったな)


揺れる車内で、太一は自分の行動が衝動であることを後悔していた。

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