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生き甲斐、殺し甲斐。  作者: 惛酩
19/24

幾度目の確認


「ただいま帰りました」

「ただいまあ!」


二日ぶりにアジトに戻ってきた

美辰(みたつ)の大きめの声に反応してか、二階からドタドタと足音が聞こえてくる


「タイチー!おかえリー!」

「うん、ただいま。心配かけてごめんね」

「タイチ、もう痛くなイ?」

「別に怪我した訳じゃないから、大丈夫」


駆け寄ってくる明霞(ミンシャ)の後ろ、脱衣所から髪の毛を濡らした紅華(こうか)が出てくる。


「おぉ、おかえり」

「はい。…紅華さんもお疲れ様です」

「…察しのいいことで」


苦笑いを浮かべる紅華を横目にリビングに入っていく。


「おかえりー」

「ただいまです」


明らかに眠たそうな音弥(おとや)が手をヒラヒラとさせる。


時刻は朝の九時半を指している。


「起きてたんですね」

「お出迎えぐらいはしてあげたいやんか」

「ありがとうございます」

「おん。んでから、紅華ちゃんの好感度、戻したってな?」


くいくい、と親指で明霞と紅華を指す。

二人を見れば絶妙な距離感で立っている。


絶賛口を利いてもらえない期間らしい。


「…元から好感度とかありましたっけ」

「それを言うたらあかんのよ」


ははは、と乾いた笑いの音弥。

太一(たいち)は考えを巡らせる。


さて、どうしたものか。

どうすれば双方納得して仲を戻せるだろうか。


少し考えて、明霞の方をみる。明霞もまた太一を見ている


「…明霞」

「なァに?」

「紅華さんのこと、嫌い?」

「…嫌イ」

「それ、僕のせい?」


その一言で明霞の顔が強張る。

この作戦、多分いける。


「僕のせいで、二人の仲違いが起きるのかぁ」

「違うヨ!タイチのせいじゃなイ!」

「じゃあ、どうして紅華さんのことが嫌いなの?」

「…紅華(ホンファ)姐姐(お姉ちゃん)がタイチを仕事に連れていくかラ…」

「じゃあ、僕がほいほい着いてったのがいけなかったんだね…やっぱり僕のせいか」

「ち、違ウ!」


明霞が焦り出す。

太一は聡明だ。人の心の動き方はそれなりに知っているつもりだ。それが子供ならなおさら簡単になる。


「じゃあ、紅華さんのこと、嫌いならないで?僕は着いていったこと後悔してないし、あんまりショックも受けてないから。明霞が紅華さんのこと嫌いになる理由ないから、ね」


諭すように語りかける。後ろで見ている紅華の目は


(こいつ、怖…)


とでも言いたげだ。目は口ほどに物を言うのである。


「…タイチは、紅華姐姐のこと、嫌いじゃなイ?」

「嫌いではないよ」

「じゃあ、私モ嫌いじゃナイ…」


そう言って音弥の足に抱きついた。


「そこは私じゃないのな」

「紅華姐姐は、私のコト、嫌イ?」

「…」


紅華は思考を巡らせる


(別にどっちでもないけどここでどっちでもないとか嫌いとか言ったら茗泽(ミンゼァ)の親父に伝わって私の心臓が機能しなくなる。それだけは避けたい。てことは選択肢はあってないようなものだな)


「まあ、好きだね」


パアッ、と顔が明るくなる明霞。

紅華は内心ほっとすると同時にチョロいな、と思う。


その一連の動作を太一は見逃さなかった。





「さっきは助かった」


休みのうちにやるように出された宿題を終わらせるために太一は自室にこもっていた。

集中力が上がってきた頃にドアがノックされ、紅華が突然に部屋に押し掛けてきたかと思えば急にらしくないことを言いだす紅華。

宿題をしていた机から目を離して紅華を見る


「別に助けたつもりはないんですけど」

「そうか?」

「音弥さんが面倒そうだったので代わっただけです」

「お前、ほんと人をよく見てるよな」

「まあ、明霞の問いに答えるときに色々考えてたのも見てましたし」

「…はっ、食えない奴だな、ほんと」

「それほどでも」


部屋に入ってベットにどかっと座っている紅華。

大した話をしに来たわけではなさそうだなと判断した太一は宿題に目を戻す。


「お前さ」


やけに静かな問いかけに耳を傾けながら鉛筆を進める。


「ここに居れるか?」


シンプル且つ、重たい聞き方をするものだ。


「まだそれ聞きますか?」

「気ぃ使ってんじゃねえかなと」

「…別に、出ていけって言うなら出ていきますし、死ねって言うなら死にますよ」

「…言わねえよ」

「なら、ここに居てもいいですか?」


ベットの方に目を向ければ紅華と目が合う。

一瞬だけきょとんとした顔のあと、フッ、と笑みを溢す紅華


「それ、信じるからな」

「どうぞ。あと気が散るので話が済んだなら退室願います」

「つめた…」


よっこいせ、と立ち上がって部屋を出ていく紅華


「じゃ、頭使うのも程々になー」


扉がしまると同時に太一は椅子の背もたれに脱力する


(あの人、意外と心配性なのかな)


出会い方が最悪なせいで、もっと横暴な人を想像していたが、数ヶ月経って思うのは

意外と繊細だということ。


「…まあ、殺し屋だろうが心がなかろうが、腐ってもヒトか」


心がないと自分で言う割には、存外暖かい人だと思っている。太一の親の方がよほど心がなかったと今となっては思う。


(勉強しよ)


また背中に力をいれて背筋を正し、鉛筆を走らせた。



◇◆◇



太一の部屋からリビングに戻れば、美辰が階段を上がろうとしているところに鉢合わせた。その手には携帯電話が握られている。


「あ、紅華さん」

「おう、どした」

親父(茗泽)さんから紅華さんにですって」

「珍しいな。美辰に掛かってくるの」

「音弥さん落ちたんで」


リビングをくいくいっと親指で指した先には机に突っ伏した音弥がいる。


なるほど、と苦笑したあと、美辰の手から携帯を受けとる。


「もしもし、美辰から変わって紅華ですよー」

〈やあ、元気かい?〉

「ええ、お陰様で」

〈太一くんはもう平気かい?〉

「頭打ったのに相変わらず勉強してんよ」

〈そりゃすごいね。さすがだよ。聞いたときは驚いたからね〉

「やっぱり情報の回りが早いね~」

〈うちの娘をなめてもらっては困るよ〉


自慢気に話す茗泽の様子に


(速攻チクりやがったな…)


と舌打ちが漏れそうになるが堪える。


〈ところで〉

「あー嫌な予感」

〈太一くんを連れていくなんて、聞いてなかったよ?〉

「…そうでしたっけぇー?」

〈誤魔化せると思ってるのかい〉

「…言い訳の余地は?」

〈十文字まで与えようか〉

「誰かが伝えてると思い」

〈お前のそう言うところがいけないところだよ〉


電話越しにため息が聞こえてくる。


「以後、気を付けます」

〈それだけじゃないからね〉

「…ういっす」

〈まあ、起きたことは仕方ないからね。また今度会って話そうか〉

「了解っす」


電話を切って目の前で湿気た目をしている美辰に返す。


「…美辰が伝えてるかと思ったんだけどな」

「俺は紅華さんが伝えてるもんだと思ってましたよ」


ここ数日尽くついていないな、と紅華はため息を漏らした。

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