表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生き甲斐、殺し甲斐。  作者: 惛酩
11/24

それなりの覚悟



全員で賑やかに食卓を囲んだ

といっても、椅子が足りないので立食パーティーになっていた


「あ!紅華(こうか)さんそれ俺のっすよ!!」

「んぁ?知らねぇよ私の前にあったんだから」

「暴君やなぁ!はははっ!俺もちょーだい」

音弥(おとや)さんまでぇ…」


同い年トリオが美辰(みたつ)が取った具材を横取りし合っている


「んふふ、美辰ちゃんのご飯は美味しいものねぇ」


その様子を微笑ましく見守りながらピックを摘まんでいる羽衣(うい)


「コレはタイチが作ってたヨ」

「腕が良いんだね。美味しいよ」

「私は美辰さんよりも味付けが好みですね」

「お口に合ってよかったです」


太一(たいち)が手伝った料理を食べている明霞(ミンシャ)茗泽(ミンゼァ)(けい)が口々に言う


わいわいと、騒々しいとは違う、楽しい賑やかさである。


太一はその様子を見ながら、空いた皿を片付けていく


「あ、偉いやん、お手伝い」

「いえ、僕にできることはこのぐらいですから」


シンクにいた太一に音弥が来る。水を汲みにきたようだ。


「俺皿洗いやるわ」

「いいですよ、食事楽しんでてください」

「大人びとんなぁ。ええねんて、やりたいだけやから」


そう言って食器を洗いだす音弥

太一はそれに甘えて洗われた食器を拭いていく


「太一くんはさぁ」

「はい」

「自分の親、どー思ってる?」


まるで普通に、音弥がそう聞いた瞬間、一瞬だけ場が冷たくなった感覚がした。


「…どうしてそれを聞くんです」

「興味やな」

「………そうですか」

「で?どう思ってんの?」

「なんとも。それなりに感謝はしてますが、それなりに嫌いでしたから」


淡白に応える太一

いつの間にか、この場にいる全員の目線がこちらに向いている


「そうか。それなりに感謝、ね」

「はい。この世に産み落としてくれたことには、です。が、落としただけなので」

「それなりに嫌い、は?」

「親らしさを求めてはいませんが、人間らしさは幾分か持っていてほしかったな、と」


七歳にしては卓越した言葉遣いで応える太一に一同は圧倒される。


その様子を見ていた紅華が茗泽の肩をつつく


「な?良い拾い物だろ?」

「お前が拾ってくるなら、疑ってはいないさ」

「随分信用してくれてるみたいだ。な?景」

「私はあの少年が怖いですよ」

「お?小一相手にびびってんかい?」


からかうように言う紅華を横目に、皿を拭いている太一をじっと見つめる景


「あの少年が大人になったとき、貴女みたいになりそうで、怖いんですよ」


紅華に視線を移す


「…そう思って、連れてきたんだよ」


不適な笑みを顔に貼り付けた紅華がそこにいた。


「まぁ、乞うご期待よ」

「…ははっ、楽しみにしてようか」






大人数での飲み食いが終わって、それぞれ片付けを始める


太一が手伝おうとするのを明霞に止められた


「…僕、手伝いに…」

「ダメ」

「だめ、って…」

「タイチはもうお手伝いしたカラ。大人にやってもらうノ!」


そう言って太一の腕を引いてソファに座らせる


「明霞、お前も腹黒くなったな…」

「成長や、しゃーない」


机を片付けている紅華と音弥が言うのを明霞はぷいっと顔を背けている


「子供はもう寝る時間だぞー。ちゃっと風呂入って寝ろー」


美辰が食器洗いをしているキッチンから声をかける


「ハァイ、タイチお風呂行く?」

「ううん、先にどうぞ」

谢谢(ありがとう)!羽衣姐姐(お姉ちゃん)一緒に入ろウ?」

「そうねぇ、お先失礼するねぇ~」


パタパタとお風呂場に向かっていく明霞とその後ろをついて行く羽衣を太一は見送る


「レディファースト、やっさしぃー」


紅華が冷やかすように言う


「お前も一緒に行ってくりゃいいのに」

「そうもいかないでしょう」

「そーかー?」

「太一くんにも一応あるやんなぁ?恥じらい」


フォローされているのかいないのか

太一が返答に困っていると不意にテレビが付く。茗泽が付けたようだ。

なぜ今か、という疑問は置いておいてテレビを見る


『今日夕方頃、**市のアパートで男女二人の遺体が発見されました』


ニュースキャスターが言った後、映った映像は太一にとって見覚えのある建物だった


『二人の遺体には鋭利な刃物が刺さっていたことから警察は殺人の疑いで捜査を進めています』


その場にいる人は皆動きを止めニュースを見ている


「思ったよりも早かったすねー」

「だねー」

「別にヘマったわけとちゃうんやろ?」

「この私がそんなことするとお思いで?」

「せぇへんな」

「してないっすよ」


あっけらかんと話す三人の会話を聞きながら太一はテレビの画面から目を離さないでいる。


(本当に、早いな。一ヶ月は見つからないと思ってたのに)


そんなことを考えていた。

そこに茗泽が声をかける。


「気になるかい?」

「気にならないことはないですけど、興味があるわけでもないです。目の前に犯人いるし」


紅華に目を向ける太一。目があった紅華はきょとんとしている


「なんだ?恨んでんのか?」

「いや、この状況は冷静になると異常だなと」

「今さらだな。逃げるタイミングはもうないぞ?」

「そうですね。逃げる気もないですよ」


そう応えた太一を見た茗泽は薄い笑みを浮かべていた。

その顔を見て太一はあることが確信に変わる


「…茗泽さん」

「なんだい、太一くん」

「試しましたね」

「…ほう?その心は?」

「僕がこのニュースを見てどう反応するかが茗泽さんは気になったんですよね。僕にはそう見えました」


太一が茗泽を見ると微妙な顔をしている。


「…君は本当に面白いね。紅華が一目置く理由が分かった気がするよ」

「そうですか」

「君は、後悔しないかい?」

「分かりません。後悔は、後に悔やむことですから。後になってみないと分かりません。でも」


もう既に別のニュースに変わったテレビを見つめる。

太一の脳内にはさっきの映像が流れている。


「あの場所でずっと暮らすぐらいなら、死んだほうがずっとマシでしたから。ここでやることやって生きれるなら、僕はきっと幸せ者だと思います」


そう言いきった太一の目には覚悟と少しばかりの爛々さが宿っているように見えた


(やっぱり、面白いもん拾っちまったな)


紅華は太一と同じようにテレビを見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ