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《声劇台本》 Kirschbrüte

作者: にっけるスイソ

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※この部分は声劇台本ではありません。


タイトルの“Kirschbrüte”は、“キルシュブリューテ”と読みます。

キャプションの注意事項も必ずご確認ください。

著者のミリタリー知識は大したことないので大目に見てくださいオナシャス。


【台詞表示】

〇女性・・・女性役の台詞の部分

△女ナレ・・・女性役のナレーションの部分

●男性・・・男性役の台詞の部分

▲男ナレ・・・男性役のナレーションの部分


※以下の境界線の下からが声劇台本です。

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△女ナレ「私が目を覚ますと、目の前には一本の大きな桜の木が、無数の花びらを散らしながら立っていた。そしてその桜の周りには、全く何も存在しない、地平線の彼方まで四方八方白に染まった果てしない無の世界が広がっていた。私がどうしてこんな場所にいるのか、今まで自分が何をしていたのか、それを思い出そうと、寝起きの時のようにぼーっとした頭を必死に回す。そして記憶が戻る一瞬前に、桜の木の下に一人、見慣れた顔があるのに気が付く」




〇女性「お前…なんでいるんだよ」


●男性「ははは…さあ?僕にも分からないよ。ただまあ、自分がこの桜の立っている真っ白な世界に居ることと、君が僕の目の前にいることは確かに認識できているよ」


〇女性「…ああ、私もそんな感じだ」


●男性「そうか。そろそろ思い出したかな?その様子だと、君も終えてきところなんだろう?」


〇女性「…ああ、思い出したよ。そうだな、終わったよ」


●男性「そっか。まあここ座りなよ。久しぶりに会えたからね。色々と話したいことがあるんだ」


〇女性「ああ…私も話したい。横、失礼するよ」



〇女性「この桜は…たしか、私たちが最後に会った時の」


●男性「ああ、東部戦線の…第23番基地だったかな。たまたま基地で居合わせて、そのまま一緒に呑みにいって。桜並木を見ながら宿舎に帰る途中にあったヤツだよ。宿舎は部隊で別々だったから、ちょうどこの桜の所で別れて…それっきりだね」


〇女性「次の日に、私の部隊が予定前倒しで進発になったからな。計画的な奇襲だったんだか、やむを得ない前借りだったんだか。まあ、今となっては明確だけど」


●男性「はは…そうだね。まったく気の毒だよ。そっちの部隊が向かった戦線は、真っ先に制空権を取られて、毎日のように空爆されていたと聞いてたけど…よく生き残っていたね」


〇女性「ああ…でも、あそこは地獄だったよ。空爆の音を聞きすぎて、何かそこら辺のモノが地面に落ちた音を聞くだけで、震えあがって動けなくなってしまうヤツが出たくらいにはな。とても正気は保っていられなかったよ。ずっとアドレナリンが出ていて、一日が信じられない程長く感じる。そんなもんだから夜も横にはなるけど寝れなくて、酷いときには一週間、一睡もできなかった」


●男性「おいおい……僕もそこそこ酷い方かとは思ってたけど、それを聴いたら僕が経験したことは、まぁ、まるきり訓練の延長線っていうか…なんていうか、優しく見えちゃうよ。こっちの戦場は、こう着状態で撃ち合いって感じだったけど、そっちは一方的だったみたいだしね…」


〇女性「…戦場ってのは元々酷いものだ。それに優しいも酷いもないだろう。そっちの戦線だって、苦しいのになかなか退かなかったみたいじゃないか」


●男性「ああ…。あの街を占領できれば、首都が巡航ミサイルの射程圏にギリギリ入るから、意地でも退くなって命令だったんだ。でも戦争が長引いてくると、物資の補給が全然足りなくなって。食料とかも日に日に分かりやすく減っていって。最後はそんな状態で1ヶ月も睨み合ってた。神もいよいよ僕たちのこと見捨てたんだなって、そんなこと思いながら撃ち合ってた。狙撃手スナイパーが敵味方そこら中にいて、狙われる側の僕達は神経切らした瞬間致命傷さ。僕の班の仲間は、みんなそうやって撃ち抜かれた」


〇女性「…そうか。そっちこそ、本当によく生き残っていたな」


●男性「僕は運が良かっただけさ。神経張ってたとはいえ、先の内戦を生き残った古参兵まで、僕の仲間と同じように撃ち抜かれてやられた。実力で生き残った気なんてこれっぽっちも無いよ」


〇女性「運も実力の内だ。私の経験則でしかないが、目的のために尽くせば、運は引き寄せられる」


●男性「そうかな…そうだとしたんなら、俺は神に見捨てられたわけじゃなかったのかな?」


〇女性「…いや。まぁそうは言ったが、今は私もそうは思えない。何もかも偶然のあやだと、思っているところはある。そうでもないと、とても受け入れられない」


●男性「…そっか」


〇女性「はぁ…久しぶりだよ、こんなに人と話すのは」


●男性「実は僕もだ。ましてこんな与太話みたいな会話なんて尚更に。君はもともとそんなに話さない質たちだから、余計にそう感じるだろう?」


〇女性「ああ…本当に。お前と出会わなかったら、人生の大半を喋らずに終えたかもしれないな」


●男性「自覚あるんならもっと喋ろうよ…でも、君はそれに問題意識が無さそうだから、なんのきっかけも無ければそうなり得るかもね」


〇女性「…人と話すのは、基本的に好きじゃないからな」


●男性「そんな君の、唯一といっても過言ではない話し相手になれて、僕も嬉しいよ」


〇女性「……きも」


●男性「はあっ!?」


〇女性「いや、流石に今のはちょっとキツイわ」


●男性「あ、うう…確かに言われてみればそうだけど。…でも、いいだろ。その…ほ、本心、なんだからさ」


〇女性「…はあ?どうしたお前。なんからしくないぞ」


●男性「らしくないも何も…分かってるんだろ?僕たちがここに居る理由」


〇女性「それが何なんだ?」


●男性「普通だったら、こんなところで誰かには出会ったりしない。そもそもこんな場所にも辿り着かない。でも僕たちは今、実際にこうやって出会い、話をしてる。しかもこんな、まわりは真っ白で、ここに一本だけ桜が立ってる世界で。その意味は分かるかい?」


〇女性「…何が言いたい?」


●男性「お互い、あの時のことを後悔してる。この桜は、きっとその証だよ。この桜は見ていたんだよ、僕等のことを。…あの時、この桜の木の下で別れる時、僕に言いたかったことがあるんだろう?」


〇女性「ッ…なんなんだよ…」


●男性「…分かるよ。そんなものは僕にも無いって思ってる。いや…そう思ってた。でもあるんだよ、僕にも。意識したくなさ過ぎて、無いものだとしていた場所に。恐らくだけど、ここはさっきみたいに駄弁る為の場所じゃなくて、お互い言えなかったことをうち明かす為の場所なんだよ」


〇女性「…はぁ」


●男性「きっとそうじゃないと、僕も君も、これから報われないんじゃないか?苦しい気持ちは僕にもよく分かるよ。忘れたいとさえも思った。ずっと抱え込んだままで居ようと思った。でも、抱え込んだまま終わるのは、なぜか酷く苦しいんだ。…頼む、話してくれないか」




▲男ナレ「僕の言葉を聞いて、彼女はしばらくの間沈黙した。何分もあったように感じられたその長い沈黙の間、彼女は自分の中でどのような事を考えていたのだろう。僕がそうだったように、本音と真正面から向き合うのは、本当に恐ろしくて、とても勇気が必要な事だ。僕は少し震えているようにも見える彼女の姿を見ながら、彼女の返答を静かに待った。そして彼女は、初めて僕と話した時のような、ささやくような声音で話し始めた」




〇女性「…なんで、」


●男性「ん?」


〇女性「…なんで私について来たの。中等部生から士官学校に直接進むなんて人は、学年全体でも私以外誰も居なかった。なのになんで?…士官学校で初めて、名簿を見た時は驚いたよ。どうして私なんかについて来たの?…君も最初は、普通に高等部に進もうとしていたでしょう?」


●男性「…ああ、それか。はは…そうだよね。あんな年齢から軍人を目指すなんて、君みたいに親が軍人でもないとなかなかそうは思わないよな。実際最初の頃なんか、何度も逃げたくなったし、悪夢も見たくらいだ。教官の声聞くだけで毎日吐きそうだったよ」


〇女性「だったら尚更、どうして?」


●男性「…羨ましかったんだよ、君が。僕は君みたいになりたかった」


〇女性「え?」


●男性「学校のどこに居ても、他の誰とも話さず一人で過ごしてて、友達も全く居ない。でも、それになんの不自由も感じてなくて、むしろ居心地が良さそうなくらいだった。ただひたすら自分を信じて行動していた君が、僕には鮮やかに見えた。今でも変わらないよ。周りに流されて何もかも決めてしまうような僕と比べてさ。君のそんな姿を見てから、もっと自分の人生を生きたいって思ったんだ」


〇女性「自分の人生を生きたい…ね。だったら尚更、軍はやめた方が良かったんじゃないの?そんなリスクを冒してまで、私についてくる意味があったの?」




△女ナレ「私のその問いを聞いて、彼は少しの間だけさっきの私のように押し黙った。本音を言えと自分で話している割には、先程からやたら落ち着きが無い彼は、より一層恥じらったような顔でこちらに向き直った」




●男性「…意味…あったさ。最初は…そうじゃなかったけど。君の後を追うなんて理由だけで、こんな世界に来るんじゃなかったって、初めは思ってた。自分の為に生きているなんてもちろん思えなかった。でも…でも、君と話すようになってからは変わった。僕自身も、自分を信じることができるようになった。それで、君と過ごす時間が増えていく度に…その、君の事を知っていく度に、僕はこれで良かったんだ、って思ったんだ。だから、えと、…んん…」


〇女性「…もう、いいよ」


●男性「え?」


〇女性「もう素直に言ってよ。君がそうするべきって言ったんじゃないか」


●男性「…うん…うん、わかった。…僕はずっと、君の背中を見てた。追いかけてた。憧れの存在みたいなものだと思ってた。でも今は違う。君の事を知って、君も僕と同じ、笑ったり怒ったり、泣いたりする人間なんだって思うようになった。だから今は、君の横で一緒に同じ方向を向きたい。僕は君と一緒に、この先を歩んでいきたい」




▲男ナレ「言い終えて、僕の顔は煙が立ちそうなほどに熱くなり、思わず彼女の目から視線を外す。なぜか彼女はしばらく黙ったままで、僕は沈黙と羞恥しゅうちに押しつぶされそうになるのを耐えながら、彼女の返事を待つ。彼女の声が聞こえた。僕が顔を上げると、彼女は―――笑っていた」




〇女性「ふふふっ、顔、真っ赤じゃん」


●男性「う、うるさい!!」


〇女性「ははは。でも、いいよ。私もそのつもりだから」


●男性「…うん。さあ、僕はちゃんと言ったからな。今度は、君の番だよ」


〇女性「…ああ、ちゃんと言うよ。…私も、君と出会えて嬉しい。人と話すのは心底嫌いだった。自分の事を話すのも、相手の無駄な話を聞くのも、気を使う上にメリットも少ない。そんな考えだったから、自然と誰も寄ってこなくなった。君くらいだよ、私にこんな興味を持った人間は。私のことを本気で理解しようとしてくれてた、行動でそれが伝わったよ。そんな君と話している時間は、安心できる。誰かと居る良さを教えてくれた。今は感謝してる。そしてこれからも、私の理解者で居てほしい。だから…よ、よろしくね、これからも」




△女ナレ「私の顔は、いったいどれくらい赤くなっていたのだろう。想像したくもないくらいに私の顔は熱かった。でも、それは彼も同じだった。私が心の奥底から絞り出した言葉を聞いて、彼はにこやかな表情を浮かべた」




●男性「もちろんだよ。ありがとう。僕なんかを…僕を、頼ってくれて」


〇女性「信じてるからな」


●男性「…うん!」




▲男ナレ「僕の返事を聞いて、彼女はまたひとつ微笑んだ。僕と一緒に居る時でもそう簡単には笑ってくれない彼女が、こんなに安らかな表情をしているところは、そう見たことがない。普段は、見えもしないくらい遠くにある何かを、ひたすらじっと見つめているような彼女が、今は自分だけを見つめてくれている。その瞬間が僕の中の不安を消していった」




〇女性「ははは…!ああ…なんか、本音言わなきゃいけないのに、結局私達らしい言い回しになったな。でも…すごくすっきりしたよ。ありがとうな」


●男性「うん。こっちこそ、ありがとう。僕も、今凄く清々しい気分だよ」


〇女性「ただ…ひとつだけいいか?」


●男性「うん?」


〇女性「君は私と関わるようになってから、自分を信じ始めたと言っていたが…私は、君が私を追って士官学校に入った時点で、十分自分を信じられるようになっていたと思うけどな。そしてそこで折れなかったのも、もう君自身の意思だ。君は自分で変わったのさ」


●男性「まあ…そうかもしれないね。でも、その頃はきっと無意識だよ。実感できていたわけじゃない。それに君みたいな人間がいなければ、きっと変わりたいとも思ってないよ。だから君無しじゃ変われなかった。本当に…出会えてよかった」


〇女性「…お前、ほんッと話し相手が今の私で良かったな。流石にカッコつけすぎだろ」


●男性「だから今更って言ってるでしょ、『音無し女』」


〇女性「おッ前…余計なことを思い出さすんじゃねぇ!お前じゃなかったら普通に殴ってたぞ!?」


●男性「ははははははッ!!少しは僕が受けた仕打ちを感じてもらいたくってね」


〇女性「……はっ…はは、ははは…まぁ、今更後悔しても、な。笑える話だよ、ほんと」


●男性「…ああ」




△女ナレ「私たちが互いに胸の内を明かし、暫くの間笑い合っていると、彼と私の元に、いつの間にか一本の四合瓶と、2つの小さな盃さかずきが現れていることに気が付いた」


▲男ナレ「その四合瓶のラベルは、無数の桜色の花弁が、淡い春風に吹かれて飛び交う様子を煌びやかに表していた。ラベルの奥の透明な硝子瓶に溜まっている清水しみずは、僕達の頭上で咲き乱れる桜と同じ色で輝いている」


△女ナレ「今となっては遠い、故郷の国の名酒。高い酒だから、祝いの時にだけ共に呑もうと決めて、一度も味わう事はなかったそれに、私たちはそっと手を伸ばす。互いの白い盃に注がれた桜色の水溜まりは、輝きを失う事無く、私達の手の中で、ほのかに香りをたてている」


▲男ナレ「ふと、僕が彼女の方を見ると、彼女は今までで一番の表情をしていた。彼女は僕の方を見返して笑みを浮かべていたから、僕自身も良い表情ができているんだということを理解することができた」


△女ナレ「私たちは向かい合って、盃さかずきを持った手を互いに突き出す。見つめる先には、双方の瞳が、手元の桜色の如く、潤うるおい輝いていた」




●男性「さぁ、何に向けて乾杯する?」


〇女性「そうだな…私は、戦車に潰された君の身体からだと、君に出会えた素晴らしい人生に」


●男性「ははは!じゃあ僕は、土の上で砕け散った君の身体からだと、君に出会えた素晴らしい人生に」



〇女性、●男性「「乾杯」」  (同時)




▲男ナレ「僕は盃さかずきを一気に飲み干して、全身に広がる花の香りとその余韻を味わう。そしてもう一度彼女の方へと視線を戻した」


△女ナレ「その時には既に、彼の姿は少しずつ桜の花びらとなって散り、どこからか吹いてきた、暖かい春風に乗って消えていった。私の姿も、きっと同じように。私の意識が消える最後の瞬間まで、桜の香りは私の心をやさしく包み込んでいた」



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