第二十二話 怒り
【前回のあらすじ】
涼はコンクールの表彰式に参加していた。そこで見る初めての金井の態度に対し、納得できない彼は宣戦布告を言い渡す。
ーー2023年 冬
年が明け、まだ寒さが残るものの気温が少しずつ高くなり始め、徐々に春が近付いていた。
涼はひたすらに作品を書き続け、ようやく連載できる見込みが立っていた。あとは原稿を担当編集者に渡すだけとなっているが、華の伝記を書くことが彼女の所属する事務所から止められている。出版社はそれに対し抗議し続けているが、まともな返答をされず涼共々困惑している。出版拒否を撤回されることを願い、涼は未だに彼女を作品にすることを諦めてはいなかった。そのことを華は映画関係の仕事のため多忙で、全く耳に入っていない。
この日もまた、涼は執筆を続けていた。失敗も挫折も経験した彼は、この件を全く諦めるつもりはなかった。大して失う物がない彼は、この作品に作家人生を賭けるつもりで挑んでいる。そこには『華を題材にする事で成功する可能性を上げる』という打算もあった。
しばらくして、彼の携帯電話が鳴った。その相手は金井だった。
「もしもし。赤城先生こんにちは。実は今、白附さんと一緒にいまして、話があるので赤城先生も来てもらえませんか?」
涼は驚愕した。金井と華が一緒にいることにも驚いたが、それ以上に金井から連絡が来ることが一度もなかったからだ。場所を聞き、彼は一目散に家を飛び出した。
◇◇◇
ーー2時間前
華は公開が間近に迫った、映画の舞台挨拶に出演していた。パーティーの時と同様に、原作者である金井や他の俳優たちも共にいる。大勢の記者に囲まれ質問の嵐に遭い、カメラのフラッシュを浴びれば、彼女は忽ち疲れ果てた。
「お疲れですね、白附さん。大丈夫ですか?」
舞台裏に下がり控室に戻ると、金井が華に声を掛けた。
「……はあ。質問に答え続けるだけの仕事なんてつまんない」
椅子に座り、ぐったりと凭れ目を瞑る華。舞台上で凛としていた姿がまるで嘘のようである。靴まで脱ぎ、まるで私室にいるような振る舞いをする始末。それを見た金井は苦笑いをして、そして何かを思い出す。
「あ、そういえば白附さんは聞きました? 一昨日、僕に『白附華の伝記を書いて欲しい』っていうオファーがあったんですよ。確か社長さん直々のオファーって言っていたかな?」
それを聞いた華は目を開け、飛び上がるようにして起き上がった。
「今、何て言った?」
金井を睨みつけるようにして尋ねる。金井は彼女の剣幕に困惑している。
「え……えっと、僕に『白附華の伝記を書いて欲しい』っていうオファーがーー」
最後まで金井の言葉を聞かず、華は自分の携帯電話を手に取り事務所へ電話を掛けた。
(何勝手なことしてんのよ! これは涼君が自分で考えたもの。例え金井君であっても、私たちの夢を妨げることは絶対に許さない)
少し経つと、事務所の社長が電話に出た。
「社長! 一体どういうことなの!? 私の伝記を金井君に書いてもらうだなんて、聞いていないわ!」
電話に出るや否や喋り出す華。それを聞いた社長は、呆れた様子と彼女を諭すように言葉を発した。
「華ちゃん、これはビジネスなんだよ。大した実力も知名度もない無能作家に書かせるよりも、金井先生のように確かな実績と人気のある作家に書いてもらった方が儲かるのは明白じゃないか。君が彼とどんな関係だったのかはある程度知っているが、会社の利益を考えればどちらを選ぶべきかは賢い君なら理解できるだろう?」
社長はそう言って一方的に電話を切った。社長は華の待遇を手厚くしているが、それは彼女が儲かるから。つまり利益に厳しいのである。
怒りに溢れ、携帯電話を潰れそうなほど強く握り締める華を見て、金井は矛先が自分に向かぬよう存在感を消していた。




