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ゴミの国の歌姫  作者: 熨斗目花色
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7

セクシー美女が消えた後、暫く外を眺めてぼんやりとしていたけど、体が冷えてきて思わずぶるりと震えた。

寒っ、この格好寒過ぎる。急いで部屋に戻って窓を閉める。



「お風呂に入りたい」



積もりに積もった汚れや垢はどうやら眠っている間に落とされたみたいだけど。風呂はあるのか、厳密に言えばバスタブはあるのか。


今後のこともあるし聞いておこうとメイドさんを呼んだら、何と部屋に風呂が付いているとのこと。しかも何とかって術で24時間入りたい放題らしい。


それを聞いたらもう我慢できなかった。可愛いメイドさんに洗いますなんて、男なら鼻血もんの申し出を受けましたが、もちろんお断りして久々のお風呂を堪能しました。

異世界の風呂も中々、景色と風呂は誉めてやってもいいかもしれない。


お手入れ用のクリームやら何やらまで借りて、あっちにいる時よりちゃんとしているかも、なんてバカデカイ鏡を見ながらふと考えた。

でも例えバスタブで足を伸ばせなくても、何万円のクリームとか買えなくても。



「やっぱり我が家が一番よ」



当面の生活の心配をしなくてよくなると、今度は抑え込まれていた感情やらが顔を出してくる。

理不尽なことに対しての怒りを超えて溢れてくる不安や寂しさ。さすがに泣いたりはしないけどね。石に齧り付いてでも元気に生きて帰るんだから、塞ぎ込んでいる訳にはいかないのだ。


誰が味方で何を選べば有利に事が運ぶのか、しっかりと見極めねば。

自分のやるべきことを頭の中で確認した後、お腹も空いてないことだしとりあえず寝ることにした。


今日寝っぱなしだな、なんて思いながらベットに乗り上がった瞬間、ポンとコルクが抜けるような音がして目の前に黒い何かが現れた。



「キッ……」

「るるるー!」



思ったよりも可愛らしい叫び声を上げそうになったのに、聞こえてきた更に上を行く可愛い声にそれは不発に終わる。


キツネを呼ぶ声か、と突っ込みたくなる鳴き声を上げたのはふわふわの毛を纏ったぬいぐるみ。淡いピンクのカバーの上に黒いウサギが立っていた。



「るる、るるるー!」



艶やかな長めの黒い毛にサファイアみたいな瞳。

そのおめめをキラキラさせて手に持っている箱をこちらに差し出してくる。


その姿は出禁を命じた誰かに似ているけどとてつもなく可愛い。だから動物と子供はズルいってば。



「るるる?」



ちょっと不安そうに小首を傾げて見上げてくる仕草に、世の男どもが上目遣いに弱い理由が分かる気がした。

抗いようのない欲求に身を任せて手を伸ばす。耳の根元をくすぐるようにそっと頭を撫でたら、「! るるっ!」とご機嫌な声を上げてウサギが飛び跳ねた。で、ベットの柔らかさに耐えられず着地で転ぶ。



「るるー……」



不満そうな姿があんまり可愛くて思わず吹き出してしまった。



「る? るるる、るるー!」

「はいはい、何言ってるのか知らないけど、おまえは可愛いね」



緩んだだらしない顔をしている自信がある。仕方ないじゃないの、昔ウサギを飼ってたこともあるのよ。超絶美形野郎め、そこまで調べたんじゃなかろうな。



「る、る、る!」



遠慮することなく撫で回していると、ウサギは持っていた箱を私の膝の上に置いた。



「るるっるー」

「開けろってことよね」



とりあえず開けるくらいしてやるか、とリボンを解いて中を確認した瞬間に箱を閉めた。


あのバカ王め、色気の次は金で釣る気か?

箱の中身は大小様々な形と色を持った眩い輝きを放つ石だった。どう見てもそこら辺に落ちている石ころとは次元が違う物だ。



「ルル」

「る?」



肉球で自分を指差したウサギに「そう」と頷いてやる。



「おまえのことをルルと呼ぶから。で、ルル。これ、おまえに渡した人に返してきて。私は私が欲しい物以外受け取りませんから、無駄に国の金使うなって」



金にモノを言わせて懐柔しようなんざ、100万年早ぇ。

ニッコリ笑ってルルに渡せば、小さな体がびくりと震えた。小動物を怖がらせるつもりはなかったんだけどなー。



「るるる〜!」



何やら悲しそうな声を上げて、ルルはまたポンと音を立てて消える。ほんの少しの罪悪感を覚えながらも、今度こそ寝ようとベットの中に身を潜り込ませた。

さあ寝るぞ、と目をつぶってはみたものの、今夜はまだまだ寝れないってことをこれから嫌になるほど知ることになる。


ルルがどこかの誰かとの往復を繰り返すこと数十回。もうすぐ夜明けじゃないのって時間に私がようやく受け取ったものはお菓子の詰め合わせです。

不憫な美形野郎め、気付くのが遅いんだよ!




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