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ゴミの国の歌姫  作者: 熨斗目花色
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まだ諦めなくてもいいですか? なんて言いながら部屋から出て行ったヨーダを、無理ですーと手を振って見送った。これで諦めてくれるなら嬉しいけど。


大体その前におまえのそれは本気なのか? って方が疑わしい。そりゃ求婚よりは恋愛してみたいって方が分かりやすいけど、こんな状況だけにどうやってそれを本気と信じろって言うのか。



「それに今は恋愛なんて暢気なこと言ってる場合じゃないし」



私は今人生の最重要局面に立たされている訳で、やっぱり恋愛ってのは余裕があってこそできるもんだと思います。


いかにも姫がいそうなバルコニーから吹く風がレースのカーテンを揺らす。1人になった部屋に入ってきた風は少し冷たさを滲ませていた。差し込む光で赤く色付き始めた部屋の中で、あの二つの太陽が沈む場面を想像する。



「ゴミの中に沈む太陽も中々乙なものだったけど」



王都に沈む夕陽はどんなもんか。ソファーから立ち上がり窓辺へと向かう。まだふらつく足をそろそろと動かして少しだけ開かれたままの窓をゆっくりと開いた。

ふわりと吹いた風に伸びるに任せたままの髪が後ろへ靡く。目の前に広がる光景に私は思わず息を飲んだ。



「……これはお見事」



この景色だけは褒めてやろう。

ヨーロッパの街並みたいに芸術品のような建物が美しく並ぶ王都。暮れていく二つの夕陽はゆらゆら揺れて、遠くまで広がるそれらを赤く染め上げていた。



「美しいでしょう?」

「ぅわっ!!」



不意に聞こえてきた声に驚きのあまり飛び上がる。後ろへ下がりながら声の方へ顔を向ければ、まさかの手摺りの上にセクシーダイナイマイツが座っていた。



「驚かせてごめんなさい」



マーメイドラインのドレスに包まれた長い脚は手摺りの外へ投げ出され、体を捻るようにして美女がこちらを見つめている。少しだけ困った顔もまたセクシー。



「じゃなくて! 早くこっちに降りてください!」



どう見積もってもここは5階以上の高さがある。その状態で手摺りに、しかも外側を向いて座っているとか想像しただけで体の奥が縮み上がりそうだ。



「心配してくださるの? ありがとう、でも大丈夫、腐っても術師ですから」



猫のように少し吊り上がり気味の黄金の瞳がふわりと微笑む。吹く風に波打つように揺れる金髪をそのままに魅惑的な笑みを浮かべる美女。しかも術師とくれば話の流れからいって思い浮かぶのは1人だった。



「あの小さな術師の親御さんですか?」

「ええ、始めまして、希求の歌姫様。私はラプルの母です。歌姫様、今回のこと、私たちの力が足りなかったばかりに本当に申し訳ありませんでした。謝って済むことじゃないのは分かっているけど、どうしてもお伝えしたくて。まだ本調子じゃない時に次から次へとお邪魔してごめんなさい」



何と、ここにきてまともな人が出てきた。見た目は高飛車でもおかしくないきつめ美人なのに低姿勢。まあ私が歌姫とやらだからかもしれないけど。

それでも、謝って済むことじゃないと理解していることも、次から次へ邪魔している意識がしっかりあることも高評価だ。



「あなたは病に伏してるんじゃなかったんですか?」



だけど、まだ謝罪は受け入れられない。その言葉は聞かなかったことにして質問をしたら、美女はどこか寂しげに微笑んだ。



「そうね、二度と治らない病なの。だから、歌姫召還の儀式には出られなかった。私が術を唱えていれば、とは言いません。今最高の術師はラプルで間違いなく、その力を持ってしても歌姫様を無事にお迎えすることができなかったということ。ただ我々の力不足です。歌姫様のお心とお身体を深く傷付けたこと、どれだけ悔やんでも悔やみきれない。だから、私はあなたの願いを叶えます。誰が何と言おうと絶対」



真剣な眼差しは信頼できると感じた。この人は多分、私の望みがこの国や王様に不利なものだったとしても絶対に裏切ったりしない。まあ、女の勘って奴です。

でも、だからそう思えたからこそ、何で? と思う。



「……そこまで私のことを考えてくれるなら、なぜ歌姫召還を? 家族や友達に仕事、自分の世界と切り離された歌姫が何を願うか分かっていたでしょう?」

「それは、今までの歌姫様の歴史に甘えていたことと、後はアルシャレイ様が不憫だったから、かしら。何にしても歌姫様には関係ないことですね」



だからやっぱり申し訳ありません、としか言うことができません。そう言って、手刷りに座り身を捩ってこちらを見ていた美女がふわりと宙に浮いた。そして、空中で見事な最敬礼を見せる。



「不憫ってどういうことですか?」



あの超絶美形が不憫? 確かに少し残念な雰囲気を醸し出してはいるが、何をもって不憫なのかちょっと気になる。


私の質問に顔を上げて、こちらへ流れるように移動した美女が耳元でこっそりと教えてくれた。



「あの子はずーっと憧れていたの。ご先祖様と歌姫様の恋物語に」



えらく可愛らしいが、耳元で囁く必要があったのか不明な秘密を教えてくれた美女は、現れた時と同様に不意に溶けるようにして消えた。



「3日以内にラプルとまたお邪魔します。お望みの解答と一緒に」



夕闇の中にデキル女の言葉を残して。



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