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ゴミの国の歌姫  作者: 熨斗目花色
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3

所謂不貞寝をした後、今度はお腹が空いて目が覚めた。

そりゃそうだ、あれからどれくらい経ったのか分からないけど、最後の食事も満足いく量を食べた訳じゃないのだ。大分胃は小さくなったと思うんだけどまだまだお腹は減る。

仕方なく起き上がって胃の辺りを押さえていると、またまたそれを見ていたかのようにドアがノックされた。



「失礼します」



暫しの沈黙の後、ゆっくりとドアが開きメイドさんが入ってくる。そうメイドさんだ。

どこぞのカフェで働いているようなミニスカメイドではなくて、踝が隠れるほどの長さの上品なワンピースに白いエプロンを着けたこれまた美人なメイドさんだった。



「歌姫様、よかったらお食事はいかがですか?」



淡く頬を染めて眩しそうにこちらを見つめてくる彼女は最強に可愛かった。きっちりと纏め上げた金髪に明るい水色の瞳、清潔感に溢れながらもお人形さんみたいな愛らしさもある。



「あの、こちらに来られてからまだ何も口にされてないと聞きました。お体が心配です、少しでもいいので食べていただけないでしょうか?」



お腹は空いている。だけど、あいつらから恵んでなんかもらいたくない。そう思っていたけど、こんなに可愛い子に泣きそうな顔でお願いされて断るのはすごく心苦しい。

あいつら、それを見越してこの子を寄越したんじゃないだろうな? そんな事を考えていたら多分凶悪な表情になっていたんだろう。私を見て青褪めた彼女は組んだ両手を胸に当ててその場に跪いた。



「私がお気に召さないようであれば他の者に代わります。どうか、お食事を取っていただけないでしょうか?」

「食べます! 食べるから早く立ち上がってください!」



誰かの下で働くことに慣れた小市民は、跪かれることになんて慣れていない。慌てて食べると伝えたら、彼女は本当にホッとした表情を浮かべてテーブルの上に皿を並べ始めた。



「なるべく食べやすいものを用意したつもりですが、お好みに合わなければ他のものを用意しますので遠慮なくお申し付けください」



漂ってきた美味しそうな匂いに本格的にお腹が空いてきた。ここはもう素直に食べておこう。

テーブルに向かう為に、ゆっくりとベッドから足を下ろして立ち上がる。ふらつきそうになった体を何とか立て直してそろりそろりと足を動かした。



「あ、申し訳ありません! どうぞお掴まりください」



駆け寄ってきた彼女からふわりと良い香りがする。美人さんは香りまで美人なのね。お言葉に甘えて彼女の肩に手を掛けさせてもらった。



「ありがとうございます」



無事に椅子に腰を下ろしてお礼を言えば、彼女はぶんぶんと音が聞こえそうなくらいに大きく首を振る。



「そんな! 私共にそのようなお心遣いは無用です。歌姫様の少しでもお役に立てるのなら身に余る光栄です」



何て大袈裟な。どう返事したらいいのか分からないので、とりあえず目の前に並ぶ食事に目を向けた。

ゴミの国ではまずお目に掛かれない温かい食事と良い匂い。色合いとか形は見たこと無い物ばかりだけど、多分美味しいだろうと思わせる。リゾット風の真っ赤なスープを掬って食べてみたら、トマトではなくまさかのクリームシチュー味だった。



「いかがですか?」

「美味しいです」



恐る恐ると言った感じで聞かれて素直に答える。ここでこの子を困らせても仕方ないし、腹が減っては戦ができぬって昔の人も言ってるしね。


可愛いメイドさんは私の返事にそれは嬉しそうに微笑んだ。

なんて可愛いんでしょうね。あんな野郎2人に囲まれるより可愛い子といた方がまだ和む。あいつらとは話したくないし、この子に聞けるだけ聞いておこうか。



「さっき会った黒髪に青い目の男性は誰ですか?」

「アルシャレイ国王陛下でございます」



誕生祝いに歌えとか言うような奴だからそりゃ偉いだろうと思えば王様だったか。王子くらいかなと思ってたけどかなり若い国王のようだ。



「では、私はいつ帰れますか?」

「それは……」



これが1番重要な問題だ。メイドさんは驚きに目を見開いて言葉に詰まっているけど。

帰る方法はない、と言われることも想像していた未来の一つだ。だからと言ってそれを許す訳じゃないけど。でも、もし帰れるのならまた少し話が違ってくる。

まあ帰れるにしても私に有利なように話を進めないと、いくら国賓待遇って言っても籠の鳥になってしまうかもしれないしね。



「申し訳ありません。私共は詳しいことを知らされておりませんので……よろしかったら術師にお尋ねになられたらいかがでしょうか?」

「術師?」

「はい。歌姫様をこちらにお連れした術師でございます」



出たな、諸悪の根源!



「ぜひ会いたいです。今すぐにでも」

「わ、分かりました。確認して参ります」



強い口調で言ったらメイドさんは慌てた様子で一つ頭を下げて部屋を出て行った。



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