探偵『を』相続した助手
なろうラジオ大賞に応募する作品なのに明らかにあのラジオ番組の明るく楽しい空気感とは全く違う相反するシロモノが出来ました。
体調でも悪いのかな?
胸の悪くなるような後味の悪い作品なので、ごめんなさい。
どうして?
その問いの答えを僕は知っている。
『知り過ぎたから』
だけど解らない。
何故僕を指名したのか?何故託されたのか?
彼女もこれも教えてはくれない。
「犯人は孫の悟君だ。」
集められた容疑者は体を震わせて彼を見る。
当人は瞳孔を開き、手を握り、足を震わせる。
表情は一瞬だけ曇らせ直ぐ立て直す。
「探偵さん、何を根拠に……」
「君はランチの時に喫煙室に顔を出していた。なのに今、煙草臭が服からしない。つまり君はランチの後に祖父剛氏を殺し、返り血の付いた服を始末して同じ様な服に着替えた。
ああ、この別荘、下水はタンクに貯めて定期的に回収されるんだ。見つかったよ。血の付いて切り刻まれた君の衣服がね。」
こうして、資産家辻剛の殺人事件は幕を閉じた。
しかし、僕の頭の中ではエピローグが続く。
(悟君は孫じゃない、息子だ。剛氏は自分の娘に手を出して彼を産ませた。彼の父親は彼が生まれる前の一年以上海外に居た写真があった。)
(剛氏の息子たちも酷い、良い女を貢げば剛氏は金をバラ撒く。今回連れてきた女の子達も危うく色欲爺の餌食になる所だったのだろう。用意された睡眠薬を見ただろ?)
(児童養護施設の設立協力?自分の蒔いた種の始末をしていた。挙句に親の居ない子どもも探し放題。挙句に数年前に無くなった施設出身の子どもが彼に臓器提供をしてるんだ、全く酷い奴だ。)
深く考えていない、探求もしていない、悪いが正義感ももう無い。
それでも真実は頭に浮かぶ。解ってしまう。
僕の推理を感謝する人達は目の前でお礼の言葉を言ってくれている。
だけど、彼らにはこれが見えていない。これは単に祖父殺しの殺人で終わるんだ。
何でこんな 呪いだ もういやだ しりたくない たのむからわからないでくれ!
僕が助手をしていた探偵はある日突然消え、同時に僕は彼女の『探偵』を相続した。
彼女の推理の冴え、洞察力と観察力を何故か継承した(してしまった)僕は彼女の如き名探偵に成れた。
けれどそれからの日々は地獄だった。
頭に流れ込む事件の答。視ずとも見える残酷な事実。吐き気のする人の真意。
目を瞑り耳を塞ぎ鼻を摘み酒に溺れても、真実の数々を、1+1が2だと考えずとも知っている様に、当然の様に解ってしまう。
彼女が消えたのは知らずとも良い真実を知らされるからだ。
だけど、何故、君は僕にこんな呪われた物を贈ったんだ?
答えてくれよ、君。
『深読みのし過ぎ』と周りに言われる人の話を聞いた事が有るんです。
曰く、『考えようと思って考えている訳ではない。頭の中で何もしなくてもそういう結論に辿り着いてしまうのだ。』との事。
『気にするな』・『考えるな』と言われても『気になってしまう』『考えてしまう』のだとか。
あなたがもし、こんな名探偵の能力を相続したら、どうします?