15月495日は巨大ラーメンの日
太陽が登ってしばらく経った頃。
目が覚めた少女は、眠たい目蓋を軽く擦りながらふああと大きくあくびをして、ベッドの横のカレンダーを見ます。
今日は15月495日。ここ日本では一般的に巨大ラーメンの日と言われています。巨大グラタン、巨大マシュマロ、巨大ラーメンは日本三大巨大食材祝日として祝われており、それぞれ別々の日に別々の地域で盛大に祝われています。
少女は、巨大グラタンと巨大マシュマロの祭りは家に遊びにきた人々が話していた噂越しの知識しかありませんが、巨大ラーメンの日は毎年参加をしています。別にラーメンが好きだからという理由ではなく、単純に少女の住む家が祭りの開催地域にあるからです。
少女は身支度を整えて、「行ってきます」と家から出て行きました。家からは誰も何も応えません。
家をでてすぐの場所に大きな大きな川があり、白い和服をきた人たちが中で騒いでます。
少女はそれを、川を跨ぐ橋の上から眺めます。
やがて、茹でられた熱々の巨大なラーメンの麺がトラックで運ばれ、ばっさぁぁんと川に入れられます。この時だけ、普段は冷たい水の流れる川は少しの間熱々になるのです。
川の中の和服の人々は、みんな必死に麺を手で掴んでは自分の持ってきたお椀に入れます。なぜこうも必死なのかというと、はやく拾わないと麺が冷たくなってしまうからです。
少女は「麺を川なんかに入れなければそんな心配しなくていいのに」と思いました。けれど、祭りというのはよくわからない意味のないことをするものです。それに対して口出しするのは失礼であるしやめようと考え、トラックの中にある熱々の麺を赤茶色のお椀にそっと入れました。
そして、人々の波に紛れて少女は山を登ります。
山を登りながら、チャーシュー、メンマ、ネギ、ノリ、タマゴ、などなど様々な具材を人々が取り合う姿を眺めました。
少女はカマボコの入ったラーメンが食べたかったので、木の上からカマボコをばら撒くおじさんを見つけた時は自分のお椀を頭の上に乗せて中に具材が入るようにがんばりました。
おじさんはにこにこしながら桃色と白色のカマボコを木の上からばら撒きます。少女のお椀にもカマボコが1つ入りました。あとはスープがあれば完成です。少女はご機嫌な様子で人の波に揉まれながら山を登ります。
その時でした。
ポコン、と少女の頭に衝撃が与えられます。
ペットボトルを投げられたと理解するのに、時間はかかりませんでした。空のペットボトルだから痛みはそこまでありませんでしたが、人にペットボトルを投げられたということに少女はむすっとしました。
人と人に挟まれながら周りをきょろきょろ見ます。
ポコン、またペットボトルが投げられました。
青色のお椀を持った少年が、同じく人に挟まれながら不満そうな顔で少女にペットボトルを投げたのです。
少年のお椀には麺の上にたくさんのモヤシがありました。
「どうしてこんな」
ことをするの、そういい終わらないうちにポコンポコンとペットボトルがどんどん投げられます。
この人混みの中、こうも的確に少女の頭だけにペットボトルを当てるのは器用だなとは思いましたが、それよりもこの行為を少女はやめて欲しく思いました。
「僕だってカマボコラーメンが欲しかったのに!」
少年はそう言いながらまたポコンとペットボトルを投げました。やめて、と少女は頭を抑えますが少年の手が休まることはありません。
やがて攻防が続いたまま山の頂上にたどり着きます。
みんなが今か今かとラーメンのスープを待っています。
けれど少年はポコンポコンと少女にペットボトルを休まず投げてくるので、少女はスープどころではありません。
仕方がない、そう判断した少女は飛びました。
少年は空に向かってペットボトルを投げてきます。
少女は高く高く飛びました。
もう、投げられたペットボトルは届きません。
少年が地上から悔しそうに少女を見上げます。
人々はそんな二人の小競り合いなどまるで見えていないのかというように意に介せず、スープを待ちわびています。
巫女が現れ、川の水を神に捧げました。彼女は両手を天に掲げてスープを求めて「神に感謝を!神に祈りを!」と叫び始めました。けれども何もおきません。
神からのスープが与えられないのです。
焦った巫女は、代わりにメロンパンを焼き始めました。
巫女の得意料理がメロンパンなのです。
メロンパンをおかずにラーメンの麺を食べる人々。
少女はそれを見て、少しだけかわいそうに思いました。
けれど、地上からは相変わらず少年がペットボトルを投げるので、降りたくはありません。
少女は少し悩んでから、ペットボトルが届く位置までおりました。そして、投げられたペットボトルをキャッチします。
キャッチされると思っていなかったのか、少年はびっくりした顔をしました。少女は空にある雲をペットボトルの中に入れて少しふります。天界の水の完成です。
そのままペットボトルをさかさまにして、天界の水を出しました。水は、重力に逆らうかのように宙に浮いたままです。
少女はそれをラーメンのスープにしました。そして、それを自分と少年のお椀に入れました。
カマボコラーメンとモヤシラーメンの完成です。
少女はラーメンを食べはじめました。
少年もラーメンを食べはじめました。
ラーメンを食べるのに必死な少年はもうペットボトルを投げてはきません。
ラーメンは熱いうちに食べるのが美味しいからです。
ラーメンを食べ終えた少女は自分の家である山頂の祠に戻りました。そしてまた来年の15月495日まで眠りにつきます。
神は気まぐれなのです。
End.