00-02 うそだろ男しかいないじゃん &カネツくん
さて前述の通り教習所に着くマイクロバスの中で私は憂鬱になっていたのだが、その理由は他にもあった。
事前に調べた口コミ評価が、あまりにも酷すぎたのである。
なにしろそれを見たのはもう○年前のことなので一言一句覚えているわけではないのだが、書かれていた口コミを記憶している範囲で「ざっくり」まとめると、
・受け付けの態度が悪い!!!
・教官がクソすぎ
・クソな教官しかいなかった
・方言バリバリで何言ってんのか分かんない
・実名を出してやりたいくらい酷い教官だった!! 絶対にオススメしない!!!
・ここはやめたほうがいいですよ
・いい先生もいましたけど、うーん………………
・私にとってはよかったです
なんていう調子だ。…………うん、そりゃあ入校直前にこんなもの見たら憂鬱にもなりますわ。せめて下2つの信憑性に望みをかけるしかなかった。
ペコペコ教習所は、お世辞にも綺麗な建物とはいえなかった。なかなかスムーズに教室に入ることができず、狭いロビーの中で大人数がごった返している。しかもこのロビーを通学生や既に教習が始まっている数日前の入校生(合宿生)らも利用しているのだから、それはそれはものすごい混みようだった。
「はーいじゃあオートマの人はこっち、マニュアルの人はあっち側に座ってくださいねー」
口コミ通りぶっきらぼうな受け付け女性たちが、教室前で大量の受講生らを捌いていく。ざっと40〜50人はいたんじゃないかと思う。
(よし、私はマニュアルだからこっちだな!)
何も考えずに前の席に座った。
受け付けの1人が壇上で明らかに困惑した声を出していた。
「えぇ…………今日マニュアルこんなにいた? みんなちゃんと確認してくださいよー?」
一瞬ヒヤっとさせられたが、いや大丈夫大丈夫と私は机上を見る。正真正銘、私の申し込み書類には【MT】って書いてある。
教室の中身が満杯になってきたところで
「はい、じゃあ時間になりましたねー」
的なことを受け付けが言った。
どんな顔ぶれなんだろう、と思って何気なく同じ列の後ろを振り返ってみたら。
男、男、男、男、男、男。
その前の列も男、男。その前は…………。
…………マニュアル女私だけ!!?!?
私の心は開始早々雷に打たれていた。いや本当にあの時は驚いた。遠路はるばるやってきたぼっちは、教習所のコース内でもぼっちだったわけだ。マニュアルの女の子がいたら話しかけてみたかったけれど、そんなこともできなさそうだ…………。じゃあ同じマニュアル男子に話しかけてみればいいじゃんなんてプレイボーイな君は軽々と言うかもしれないが、そもそも純粋な喪女にそんなスキルがあると思うのか?
(やっぱり1人で頑張るしかねえ…………)
冷静にオリエンテーションを聞き流しながら、私の心は着実に閉館しかけていた。
受け付けが淡々と説明を進めていく。
「渡されたスケジュールを見てください。オートマの子もマニュアルの子も、¤¤日に仮免試験があります。ですが、この試験に落ちた場合、その時点で【延泊】が決定です」
延泊!!! 何としてもそれだけは避けなければならなかった。余分な手持ちなど一銭もない。たとえ1人だろうが私はストレートで合格しなきゃいけねえんだ。そう心に固く誓った。
自分のスケジュール帳にもでっかい字でメモしておこう。そう思ってオリエンテーションの休憩時間に黙々と書いていたら、隣からチラチラ視線を感じた。もちろん知らない人だ。
「あの、何書いてるんですか」
「えっ?」
会話の切り出し方が中々に斬新すぎて思わず笑みがこぼれちゃった喪女。
「あっいや、何書いてるのかなぁって…………」
背の高いシャイそうな男の子だった。
「あ、えーと、¤¤日の仮免に落ちちゃうと延泊になるよ、っていうメモを、手帳に……。」
ハイパー人見知りな私はガッチガチの笑顔を見せつける。
「ああ、なるほど……」
ーー再び餅角に電流走る!
(は…………話しかけられた⁉ 知らない男の子に!!!?!)
まあ確かに、私が話しかけなくても相手から話しかけてくれるパティーンだってそりゃあるだろう。いやでも本当びっくりした。こんなにワイワイ友だち同士のグループが目立つ中で、まさか隣から話しかけてくれるなんて。本当にありがとう。
その整った男の子はカネツくんといった。
「結構珍しい名字でしょ」みたいなカネツくんの言葉から始まって、それからちょっとした会話をした記憶がある。申し訳ないが会話の一言一句についてはかなりうる覚えだ……。あと、私に感情移入してくれている女性読者の中には「もしかしたら……」と淡い期待を抱いている方もいらっしゃるかもしれないが、あらかじめここに名言しておく。この初日以降に私とカネツくんとの絡みはほとんどない、ゼロではないが。……まあそれが現実です。(笑)
「カネツくんはなんでマニュアルにしたの?」
「車関係の専門学校に進学する予定なんだけど、マニュアルがあると有利なんだよね」
「そうなんだ〜。じゃあ今は高3?」
「うん」
最初こそガチガチ気味な2人だったけど、このあと受け付けに対する愚痴を私にこぼしてもらえた程度には、カネツくんとはまあまあ打ち解けられた気がする。
これから頑張ろね〜〜的な言葉でお互いにエールを送って、オリエンテーション終了と共にカネツくんとは別れた。
再びぼっちに戻った私は、改めて私専用の合宿スケジュール表を見てみた。詰め詰めスケジュールが基盤の免許合宿では、初日から教官との同乗教習が始まる。
(もう14時半かあ)
相変わらず綺麗な天気だ。
私は時間が書かれた細かなマス目の上に指を滑らせて確認した。
「えーと、今日の教習時間は何時から………………」
【19:30〜 同乗教習】
まさかの夜!!!?!
私はもう1回窓を見るが、教習所の周辺には古民家がポツポツ、それと草原が呑気に風に吹かれているだけだ。
いや………………ぼっちがここでどうやって5時間時間をつぶせと!!?!!?