表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

00-00 P県に決まるまで

 20××年・春。一人の女がMT免許を取りに合宿へ――。




 ある日のサークルメンバーとの会話。

「え? 免許取りにわざわざP県まで行くの?」

「うん」

「つーかP県って何が有名なの」

 うるせー、お土産やらねーぞ。とにかく私は合宿に行くんじゃい!!!!!



 自宅のすぐ近くにも教習所はあったし、通っている大学の割と周辺にも存在していた。友達やサークルのメンバーは皆そこらに通っていた。

 それでも私は、合宿で免許を取りたかったのだ。理由は4つ。

 1つ目の理由は、通学よりも短期間で免許が取得できるから。サークルやバイトをやっているのに加え、忙し目な学部の自分にはあまり暇な時間がない。学年が上がると長期の実習が入ってくるので、そうなると教習所への通学自体が不可能になる。


 その反面、合宿免許は驚きのスピードで卒業が可能。学校によって最短日数は異なるのだが、AT(オートマ免許)だとおおよそ14日、MT(マニュアル免許)だと18日程度でさようならだ。まあ、延  泊  に  な  ら  な  け  れ  ば  の話だけれど。私の合宿先では、MTは最短18日コースだった。通学だと、詰め詰めで通っても1ヵ月はかかるそうな。ということで合宿にまず1票。


 2つ目の理由――これが私を合宿に駆り立てた一番の決め手だ――は、安かったから。

 1年くらい前から、バイト代を貯めて免許を取ろうと思っていた。普段は朝から夕方までみっちり授業なので、がっぽり稼げるわけじゃない。自分の意志で払うとはいえ、学生にはかなり痛い出費。1銭でも安く抑えたかったのだ!



 私は合宿の料金について調べてみた。

「おっふ…………」

 かなり混み合う春休みシーズンとあってか、合宿側はどこも強気な値段設定であった。だいたい30~35万くらい。しかし通学よりもお値段優しめなことには変わらない。さらには交通費も一部支給される。ということで合宿にもう1票。


 3つ目の理由。観光がしたかったから。4つ目の理由。合宿の雰囲気って楽しそうだったから!

 ということで私は、合宿をやっている教習所を探し始めたのだ。



 教習所を紹介しているサイトを見てみたり、コンビニに置いてある合宿免許の冊子を読んでみた。おおー。どのページを開いても笑顔のリア充共と目が合うぜ。さぞかし楽しかったんだろうなあ。ぼっちでも楽しめるんだろうか。

 ほほう、グループ割!? ぼっち割はないのかー。ないなー。

 アベックプラン!!!?? 爆発して♡



 色々調べていたら、「おっ!」と思うところがあった。お値段も良心的、外部サイトの口コミでも評判良し。それに加えて、教習後は近場の温泉に毎日タダで入浴できるという神待遇であった。

 さっそく紹介サイトにメールをして、電話を待つ。

「プルルルルルルルル^^」(着信音)


 来たァ!!! 温泉、温泉と心をホクホクさせながら通話ボタンを押す。

「あ、もしもし」

「∴∴と申します。餅角ケイさんでお間違いないでしょうか?」

「間違いないです」

「えー、今回は××合宿所に『1名様で』お申込みとのことですが……」


 はて? なんでそこ強調するの?

 雲行きが怪しくなってきたぞ?



「こちらの合宿所なんですが、この時期お1人様での受付はやっていないんですよねえ~」



 は?


 ワァーーイ!!!?? 読んだのに!!! パンフレット枠下の小さな注意書きまで読んだのに!!!!!!

 通販番組が流れているときに「※個人の感想です」の部分までくまなくチェックする女なんだよ私は。青汁とコラーゲンのやつしか見たことないけど。

 ぼっち入場禁止なんてどこにも書いてないやんけ!!!!!!!


 電話越しにシャウトできるわけもなく、「あ、ソウナンデスカ……」と消極的に返答。話を聞くと、ぼっちor非ぼっち関係なく空き部屋自体ないらしい。さすが温泉。その後、相部屋で空きが出たらしいが、合宿期間が自分の都合と合わなかったので断念した。



 合宿の2ヵ月前に電話したのに、どこもかしこも満員だった。春休みすげえと改めて思った。


 引き続き、諦めずに合宿免許のお姉さんと電話していたときのこと。

「あー、もう一杯なんですね。分かりました」

「んー……。P県の教習所なら残り1名だけ空きがあったと思うんですが。確認して折り返します」



 P県? 選択肢にはなかったけれど、距離的には行けないわけでもない。温泉に入れないのは残念だけど、もうどこでもいいから早く予約したい。


 5分後くらいに再度電話がかかって来た。

「空きありました。ホテルシングルですが、どうしますか?」

 おおー。ええやん。部屋で心置きなくパンツになりたい私にとっては最適かもしれぬ。

「じゃあ、それでお願いします」

「分かりました」

「えーと、教習所の名前は?」

「『P県ペコペコ教習所』です」







 そう、P県ペコペコ教習所。

 この場所で私は、地獄の18日間を送ることになるのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ