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剣神は魔法使いになりたい  作者: 狛犬朝
第一章 剣神と怪物
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4 剣神と深縹

 避ける。


 避ける。

 

 避ける。


 魔力を込めて刺す。


 この繰り返しを続けた。

 魔力を十全に込めないと、ハクの技術をもってしても堅い鎧を貫くのは無理だった。

 敵は超巨大な体と白銀の鎧をしても素早く動くので、攻撃を当てることすら困難だ。加えて魔法攻撃もある。

 繰り返し攻撃をしていて分かったことがある。敵はダメージを負うとすぐに、シューと蒸気のようなものを上げながら鎧ごと回復してしまうのだ。

 この戦いは終わるのだろうか?疲れを知らない自分と疲れを知らない敵。こっちは攻撃に慣れてきてもう当たらない。敵は当たっても回復する。ハクには終わらない戦いに思えた。


 

   ♢



 避ける。


 受け流す。


 攻撃を当てる。


 ハクは剣を振り続けた。

 どれだけ経ったか分からない。10年のような気もするし、3年くらいのような気もする。

 白銀の騎士はダメージを修復する時少しずつ体が小さくなっているのが分かった。少なくとも不毛な戦いではないらしい。それでも小さくなったと言ってもかすり傷程度では本当に少しだけだ。

 魔力は意識せずとも流せるようになった。自在に魔力を体の中で動かすことができる。

 


   ♢



 受け流す。


 受け流す。


 攻撃を当てる。


 ……もう動くことすら面倒くさい。

 ハクは少しの動きだけでカオス種の圧倒的破壊力を受け流していた。

 フカフカだった赤いカーペットはもう毛くずとなって舞っている。地面は破壊しつくされ、ぼこぼことしていた。

 敵は初めの10分の9ほどに縮んでいる。王座やシャンデリアも小さくなっている気がした。



   ♢



 受け流す。


 受ける。


 攻撃を当てる。


 敵は2分の1程度まで小さくなった。最初より一発一発の威力は弱くなったものの速さが上がり攻撃を当てるのが難しくなっていた。

 敵の大きさに比例して王座の間も小さくなるらしい。それでも精一杯頭を傾け見上げないと敵の顔が見えないくらい大きい。

 時間の流れがいやに遅く感じる。


 「あぁ……。疲れた……」



   ♢



 受ける。


 受ける。


 魔力の刃を飛ばす。


 敵がハクの2倍程の大きさにまでなった時、魔力に鋭さを付与して射出できるほどになった。

 あと少しで終わる。王城ほどあった巨体もここまで来た。素早さも上がり、行動パターンも変わった。見たことのない剣術からハクの知っている剣術までを使いこなして変則的な攻撃を仕掛けてくる。それでも剣神とまで呼ばれたハクは魔力の刃もあってかろうじて対応することができていた。


 剣が体の一部のように感じられて気持ち悪い。

 剣なんて大嫌いだ。



   ♢



 受ける。


 攻撃を仕掛ける。


 受ける。


 攻撃を仕掛ける。


 敵は人間サイズまで縮んだ。ハクには、あと一回致命傷を当てれば敵が倒れることが分かっていた。

 あと一回、あと一回と思いながらも、焦るとここまでかすり傷しか負ってこなかった体に大きな傷ができそうで一歩を踏み込めないでいた。

 敵の剣は更に洗練され受けるのだけでも大変だった。ハクの成長に合わせて相手も成長しているようで君が悪い。

 激しい攻防。一時も気を抜けない戦いにハクの精神は削られていく……。



   ♢



 笑う。


 嘲笑する。


 目尻を下げる。


 「こんなもんーーー!?」


 ニヤリと笑いながらハクは敵の攻撃をはじいていた。


 楽しい。戦いが楽しい。楽しい!!


 「あーはははは!成長できるんでしょー?がんばれーー」


 敵の兜がハクによってはがれる。カオス種の顔が露わになった。


 「うげっ、気持ち悪い」


 ぶつぶつと突起のようなものが顔じゅうについているグロテスクな顔。耳はなくただただ不規則にぶつぶつが広がっている。もともと分かっていたが人間とはかけ離れていた。


 「かわいそうに……。殺してあげるよ」


 ハクは笑いにゆがめていた表情を、本当に憐れむように悲しそうにした。

 ハクが敵にとどめを刺そうと剣を振り上げた時、()()は青く澱んだ光を顔のぶつぶつ一つ一つから発した。どこから出したか分からない不快感を伴う鳴き声がハクに聞こえた。


 「初めて君の声を聴いたなぁ。何かするの?楽しみだなぁ!」


 ハクは再び口を裂けるほどゆがめる。剣を寸でのところで止め少しだけ距離をとる。


 突然だった。強い衝撃がハクを襲う。

 敵が青い爆発をハクに向かって放ったのだ。

 ハクは吹き飛ばされ、ハクにとっては普通と言える大きさになった両開きの厳かな扉に打ち付けられた。

 そのまま前に倒れる。


 「ぎゃああぁぁあああぁあ!!!痛い!痛いよ!!」


 ハクの体は激しくやけどを負っていた。胴体の前身が炭化してるところもある。右目付近も焼け、右目を強く閉じた。不思議と髪がチリチリと音を立てているはよく聞こえた。

 兜をなくし気持ちの悪い顔をあらわにした敵が右手に剣をもって猛スピードでハクに迫った。左腕を失い少しバランスを崩していた。

 敵がハクに速度を保ったまま剣を振り下ろした。


 「痛いんだってばぁぁあああ!!」


 と叫びながら、斬られる寸前でハクは吹き飛ばされながらも放していなかった剣を振る。


 ごとりと白銀の騎士が倒れる。


 動かなくなった敵。うずくまるハク。ずっと残っていた仲間の騎士たちの肉片。それらを呑み込むように王座の間全体が空のような青い光を発し始めた。淡い光を強めていき目を開けていられない程に強く光った時……、そこには何もなくなった。


 

 ハクがカオスダンジョンに入ってから実に8962年と11か月経ったところだった。

 

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